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コラム
コラム2022年05月「★10周年記念誌PR企画★ 第3回 お蔵入り原稿紹介①」
この度、我々『医療法人 風のすずらん会』は、10周年を記念して書籍を発刊することとなりました。このホームページでも連動企画としてプロモーションしていきます。
本書は医療エッセイ集の体裁をとっていますが、その魅力は何と言ってもバリエイションの豊かさ、多彩な著者が多彩な原稿を寄せてくれています。今回は惜しくもお蔵入りとなった原稿をちらりとご紹介。予告編として本編の片鱗を味わっていただけたら嬉しいです。
では、さっそくどうぞ!
■宇宙ステーションにて
男だ女だについて一言コメントしただけでも袋叩きにされるご時世だが、あえて言おう。働く女性は美しい。特に残業をしている女性は格別な魅力を放っている。
その理由の一つは普段との雰囲気の違い。勤務中はどうしてもみんなプロフェッショナルの顔だが、残業タイムは表情にもどこか素顔が滲み出ていて、紙を下ろしていたり、服を着崩していたりと、プライベートの姿を垣間見せてくれる。いつもと違うその空気がきっと可憐さを香り立たせているのだ。
しかし彼女たちが魅力的である最大の理由は、人知れず働いているというその姿勢であろう。例えば週末の金曜日、理事長たちはきっと華やかな店で美食や美酒に舌鼓を打っている夜。一人残って仕事をしていると、まるで他の人はとっくに脱出した宇宙ステーションに自分だけ取り残されているような気分になる。そんな静寂と闇が支配する廊下、ロビー、あるいはオフィスで偶然出会うのが彼女たちである。誰にも知られず、特別な評価もされず、そもそもそんなことを求めたりもせずに残業する女性。そんな瞬間が僕はとても嬉しい。
君もいたんだね、この途方もない宇宙の片隅に。
約束もなく、前触れもなく、たまたま重なっただけの偶然の時間。少しだけ言葉を交わす。仕事の話、上司の悪口、ちょっと脱線して生い立ち話などに小さな花が咲く。かといって距離を縮めることはなく、食事に誘うこともなく、もちろん連絡先も交わさずに僕らはすぐにお互いの残業に戻っていく。タイムカードはそれぞれの時間で押す、ほんのそれまでのひと時。
それが宇宙一幸福な時間であることを心は知っている。今頃理事長を囲んでいるどんな美女よりも、美しい人がここにいるのだということを。
著・残業野郎 (40代男性)
★医療法人 風のすずらん会 10周年記念誌
書籍名: 心ばかりの医療ですが
発売日: 2022年5月18日 (予定)
第4回でも惜しくもお蔵入りとなった原稿をご紹介します。お楽しみに!
(文:すずらん10周年記念誌制作委員会)