コラム

コラム2022年05月「★10周年記念誌PR企画★ 第4回 お蔵入り原稿紹介②」

 この度、我々『医療法人 風のすずらん会』は、10周年を記念して書籍を発刊しました。このホームページでも連動企画としてプロモーションしていきます。
 今回も前回に引き続き、惜しくもお蔵入りとなった原稿をちらりとご紹介。試食品としては少々辛口ですが、別腹で味わっていただけたら嬉しいです。
 では、さっそくどうぞ!

■弱さを告白しやがって

 精神科の集団療法の一つの形にミーティングが導入されてもうどれくらいになるだろう。
 古くはアメリカでアルコール依存症患者が教会に集って始めた語らいがあり、それがAAと呼ばれる自助グループに発展、当事者の集いという文化はやがて依存症以外の病気にも拡大していった。仲間の経験の告白を聞き、自らの経験を告白し、互いに学び合ったり支え合ったりすることは確かに大きな回復効果がある。昨今は当事者研究と呼ばれる、より積極的・実用的に自らの生きにくさの克服を目指していく新たなミーティングの手法も注目されている。

 自助グループでも当事者研究でもそうだが、多くのミーティングで基本となっているのが「弱さの告白」である。自らのつらい経験や苦労について素直に打ち明けることが大切とされているのだが、私は心の片隅で葛藤が生じていることを自覚している。

 もちろん医療者としては、ミーティングで誰かの弱さの告白が誰かの勇気になり、お互いの回復に繋がる場面を何度も目の当たりにしてきたので、その治療効果を疑うことはない。回復のための一つの手法として有用だと思う。
 ただ時々覚える違和感としては、ミーティングが生きがいになってしまっている人もいるのではないかということ。そこに参加することが最優先でその啓蒙活動に一生懸命。私の感覚としては、ミーティングはまた歩き出すためのエネルギーを養うための場所、時折立ち寄って傷を癒やすための場所ではあっても、ずっとそこに住みつく場所ではないと感じる。人生の表舞台はあくまで社会生活。生きにくかろうが逆境だろうがそちらがメインステージであり、ミーティングに没頭するあまり社会に背を向けては本末転倒、ミーティングが楽園だったとしてもそこに暮らし続けるのは健全ではないと感じる。社会生活にうまく適応できなかった人が同じ悩みを持つ仲間と苦労を共有し、そこから社会生活をやっていくための知恵やエネルギーを共に生み出すのならよいのだが、一緒になって社会のルールをないがしろにしてしまったらそれは回復ではなく堕落である。
 また参加者が口々にミーティングは素晴らしいと賞賛している場面もよく見かけるが、これにも違和感を覚える。素晴らしいと思っている人が足を運んでいるのだろうから当然といえば当然なのかもしれないが、これではそうは思っていないという発言がしにくくなる。素直な告白が大切なはずなのにミーティングへの疑問や批判を口にしにくい雰囲気があるというのは矛盾していないだろうか。

 そしてミーティングに対して私が最もジレンマに陥るのは、弱さの告白そのものについてだ。医療者としては必要と感じつつも、一個人としては弱さを告白しない人間の方に強く惹かれてしまうのである。白衣を着ている時は患者さんの告白はとてもよいことだと思うし、それを受け止めたい、一緒に道を探したいと思っている。心の病院はそのための場所だとも思う。しかし日常の中では全くそうは思わない。よく「普段強気な人がふいに弱さを見せたらぐっとくる」というギャップ信者がいるが、私は弱さを見せられた瞬間に興ざめする。語られれば語られるほどどんどん魅力指数が急降下し、泣いてすがりつかれたりすると幻滅もいいとこだ。そんなの自分でどうにかしろ、弱さを語りたいんなら木のムロにでも叫んでくれと思ってしまう。

 これは理屈ではなく単純に好みの問題。男でも女でも、弱さを一切語らずにやるべきことを黙々とやっている人が私には素敵に感じてしまうのだからしょうがない。もちろんそんな人にも弱さはあるのだろうが、それはわざわざ語らずともほのかに滲み出ている。それを察し合うことができれば十分、わざわざインタビューして涙を引き出して受け止める必要はない。自分自身についても、弱さを告白した後は途方もない自己嫌悪に陥るので、やはり多少ふてぶてしくてひねくれ者でも、弱さを見せない自分の方が好き、できるだけそうありたいと思っている。

 そんなわけで私は時としてミーティングに葛藤を感じている。誰もが弱さを告白する文化に、誰もが同じような言葉遣いをする雰囲気に、まるでカルト教団のような不気味さを感じてしまう瞬間が私にはあるのだ。この世界には色々な人間がいて、それぞれの魅力がある。弱さを語らない人間だけが放つことができる魅力もたくさんある。みんなを同じ色に染め上げてその魅力を奪うのは心の医療が目指すところではない。

 本書を読んでいる方の中にもいらっしゃるかもしれない。弱さを告白しないあなた、大きな苦労を一人で背負っているあなた、人知れず孤独と闘っているあなた。そんなあなたは素敵です。ぜひミーティングなどに参加せず、その輝きを放ち続けてください。

著・ロンリーホリック (年齢非公表)

★医療法人 風のすずらん会 10周年記念誌
書籍名: 心ばかりの医療ですが
発売日: 病院受付や書店にて絶賛発売中!

 第5回では制作裏話をご紹介します。お楽しみに!

(文:すずらん10周年記念誌制作委員会)

前のコラム | 一覧に戻る