コラム

コラム2024年10月「依存症課の冒険 依存を語るより焼き芋を交わそう」

 依存症課は週2回、水曜日と金曜日にミーティングプログラムを行なっている。これは依存症治療の支柱となるもので、同じ悩みを持つ仲間同士が支え合うという意味はもちろん、お互いの経験と知識を共有する意味でも、この難病からの回復には欠かせないものである。特に当院ではオリジナルのテキストを用いており、水曜日は精神科医が司会を務め勉強会の雰囲気が強く、金曜日はコメディカルが司会を務め自助グループの雰囲気が強い。

 そんな中、前代未聞のミーティングが開催された。
 時は2024年10月9日(水)、場所は病院敷地内の屋外。そして内容は…なんと焼き芋! デイケアで用いられているバーベキューセットを持ち出し、そこでサツマイモやジャガイモ、さらにはサンマまで火にかけてみんなで秋の味覚を堪能した。
 これのどこが勉強会なんだ、自助グループなんだと思われそうだが、実はとても大きな意味があったりする。天高い快晴のもと、冬が来る前の心地よい冷たさを含んだ風に吹かれながら、みんなで焼いてみんなで食べる。するとどうだろう、自然に普段のミーティングでは生まれない会話が生じる。焼いたり、配ったり、コーヒーを入れたり、それぞれの得意技が活かされる。そして何より、素直に笑顔が生まれるのだ。

 そういえば糖尿病の患者さんたちに対して、厳しい食事制限の勉強会をするよりも、おやつを食べながら趣味や思い出話を語らう会をした方が血糖値が良くなるという話を聞いたことがある。これまで自分も、依存症のミーティングだから依存症のことを語らなければと躍起になり過ぎていたのかもしれない。ラブソングだって、必ずしも好きだの愛してるだのと歌ってはいないのだ。
 お日柄にも恵まれ、患者さんたちもスタッフたちも大いにリフレッシュしてこの焼き芋プログラムは終了した。一人のスタッフは「普段の業務の5000倍やる気が出る」と言っていた。これでは次週からまた普通の勉強会をやったら、みんなの表情が曇りそうで心配である。

 実は同日の医局会で理事長先生もちょうどこんなことをおっしゃっていた。
「よく働き、よく学び、そしてよく遊べ」
 …まさに!

(文:福場将太)

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