コラム

コラム2013年10月『秋の夜長に心の名作(7) 伝説の教師』

 もう随分夜が長くなってきました。今回は年に数回無性に見返したくなる懐かしのドラマ「伝説の教師」をご紹介しましょう。

■ストーリー

 私立高校・新宿12社学園。若き英語教師・風間大介は「サラリーマン教師」をモットーにあくまでビジネスとして当たり障りなく生徒に接する日々を送っていた。ある日彼は2年D組の担任を降格され副担任へ、そして代わりに担任として着任したのがいくつもの学校を渡り歩く伝説の教師・「南波次郎」だった。坊主頭にカーデガンのその中年男は伝説の名にはほど遠い人物で勤務態度も不真面目、誰かが「これは常識」なんて言おうものならブチ切れて暴れまわる破天荒ぶり、私生活では借金取りに追われている始末。しかし次郎は「中途半端な正義が一番の悪」など独自の人生観を持ち、屁理屈とも非常識とも思えるその言葉は時に物事の核心を突く。次郎と風間、そしてスクールカウンセラーの神宮寺絹香は時にぶつかり合いながら時に協力しながら、生徒たちの巻き起こす数々の問題に答えを出していく。

■福場的解説

 多くの人に影響を与え、その心を動かすことができるのは「らしくない存在」なんだなと改めて感じさせてくれる作品です。無免許医ブラック・ジャックが多くの医師に支持されたように、教師らしくない教師・南波次郎は教育というものに斬新な視点を与えてくれます。彼は生徒に向かって言います、「お前らのほとんどが不幸になる」「人生に意味なんかない」「いじめみたいな楽しいもん絶対になくならん」と。これは多くの大人が子供たちに向かって無責任に口にする「君たちには無限の可能性がある」「どんな人生も素晴しい」「いじめはなくさなくてはいけない」といった綺麗事を完全に否定しています。そして「どうして学校に行かなくちゃいけないんだ」という生徒には「知るかそんなもん、自分で考えろ!」、「学校が楽しくない」という生徒には「俺がお前らを楽しませなあかんのか、楽しみたかったら自分らで楽しくなるように努力せえ!」と言い放ちます。じゃあ彼は一本筋が通った強い人間かというと全くそうではありません、自分に甘くてずるくていい加減なただのオッサンです。それなのにどうしてでしょうね、彼の言葉がこんなに心に響くのは。あの屁理屈に妙な説得力があるのは。もう10年以上前のドラマですが、全11話において不登校・友情・恋愛・いじめ・孤独・優等生と落ちこぼれ・親子・生と死・少年犯罪など様々なテーマが描かれ、マニュアルとは違う方法での解決が示されていきます。

 今にして思えば次郎のやっていることは僕たちの業界で言うところの「コンフロンテーション」「自己一致」という技法に当たるんでしょう。まあかなりいきすぎた形ではありますが。コンフロンテーションとは相手に厳しい現実を直面させること、自己一致とは自分の思っていることをそのまま相手に表現すること、いずれも精神科医療では熟練を要する高度な技術です。相手を傷つけるリスクも高く、危険な事態も招きやすい。僕の仕事からすればカウンセラーの絹香先生を応援したいところなのですが、次郎が主役の本作ではあまり活躍の場面がありません。彼女は生徒を傷つけるリスクを考えるあまりどうしてもマニュアル的な対応になってしまい、次郎から「何の問題解決にもならんわ」「そんな大嘘俺はようつかんな」と一喝されてしまうのです。まあ現実の世界では次郎のような方法で全てが解決されるわけではないですが、自分の身を守ってばかりでは相手を動かすことはできない、人間相手の仕事ではリスクも覚悟で信念を貫く勇気が大切だなあと本作を見返す度に思います。コメディとシリアスを上手にブレンドしたエンターテイメント教育ドラマ、秋の夜長にぜひどうぞ。

■好きなエピソード

 次郎の着任から数ヶ月、彼と風間のコンビに2年D組の生徒たちも親しみを感じ始めた頃。笑いが巻き起こる教室にいつも冷めた表情の少女が1人。少女は進行性の悪性腫瘍で余命半年を宣告されていた。強い虚無と自暴自棄の中にいる少女に気付いた絹香は何とか少女の心を救おうとする。少女は絹香に自分が生まれてきたことの意味を尋ねる。絹香は答える、「足跡を残すためじゃないかな、あなたはちゃんと私たちの心の中に残る」と。しかし少女は嘆く、「他人の心に残ったってそんなのちっとも嬉しくない。私は車の運転もできずに死ぬんだよ。結婚もしたかったし子供も産みたかった。私はこのまま空に消えちゃうだけなんだよ、生きた意味なんかないんだよ!」と。どうしようもない現実を前に絹香は言葉を失い自分の浅はかさと無力さに涙する。駆けつけた風間も少女に何も言ってやれない。そんな中次郎は、人間が生きる意味について意外な答えを示す。そして少女のために次郎と風間は一策を講じるのであった。

 シリーズ中最もシリアスなエピソード・第8話「生きる」。僕自身も人生や病気についてやたらと意味を求めてしまう性格なので、それによって雁字搦めになってしまうことがあります。この時の南波先生の言葉は僕にとっても目からウロコで、たくさんのつっかえを取ってもらったような気がします。また今になって見返すと「心をケアする」ということの1つの形がここに描かれていますね。南波先生と風間先生がいかなる方法で少女の心を救おうとしたのか、ぜひご堪能あれ。

■福場への影響

 以前に美唄メンタルクリニックのコラムでも触れましたが、趣味も考え方も何ひとつ一致しない同級生がいて、そいつの結婚式で友人代表の挨拶をすることになった時の話。普段一緒にいるわけでもなく電話だって滅多にしない自分が本当に友人代表なのか?と考えたりもしましたが、南波先生の「お互いの欠点を10個言ってそれでも一緒に酒飲んでくれたら本当の友達」という言葉で全て納得。胸を張って彼の欠点を語らせて頂きました。

■好きなセリフ

「救うとか救われへんとか、お前らそんな偉い人間なんか。他人をそんなに簡単に救えるわけないやないか」
南波次郎

(文:福場将太)

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