コラム

コラム2018年12月「独占公開!これがクリスマス会ステージの舞台裏」

 歳末になると毎年一人の男が医局を訪ねてくる。彼の名は仮に山平としておこう。作業療法課の主任である。「今年もよろしいですか」と、彼の依頼は12月に開催されるクリスマス会での演奏。
 音楽を愛好する者としてそのような場を与えられるのは誠に有難く、また心の医療者としてもそのような形で患者さんのリハビリプログラムに協力できるのは嬉しい。そのため開院以来、特にためらうこともなく毎年ギター弾き語りをさせてもらってきた。今年七回目の演奏を終え、一応の完結を見たため、この企画に対する思いを綴ってみたい。

1.プロではない僕らは
 大学時代に音楽部の先輩から教え込まれたこと、それは『見せ方』である。音楽ステージにおいて一番大切なのはお客さんに楽しんでもらうこと、それができて初めて自分も楽しむことができる。正直、歌唱力や演奏力だけで楽しんでもらうのは至難の業。そのため見せ方というものがとても重要になる。
 学生時代も痛感した。プロとアマチュアの大きな違い、それは演奏者が一般人ということ。プロは有名人で芸能人だからその人がステージに上がってきただけでもお客さんは嬉しい。でもアマチュアはさっきまでそこにいた奴がステージに現れるわけだからそれだけでお客さんが盛り上がることはない。だからこそ余計に見せ方が重要になる。
 そのため大学時代のステージでは、演奏中に手品をやったり振付をしたり、時には楽器を置いて演劇を挟んだりと色々な工夫をしたものだ。

2.鮮度なんてそんなもの
 そこで江別のクリスマス会ではどんな工夫をしていたかという話。まず初年度は普通に演奏した。初回には『鮮度』という武器がある。この企画自体が目新しいわけだからそこそこの演奏でも楽しんでもらうことができる。
 ただこの鮮度というのがかなりのくせもので、驚くべきスピードで落ちていく。実際に二年目・三年目は少し楽曲を北海道ゆかりのものにしてみたが手ごたえとしては不十分だった。そこで四年目は山平氏にも協力を願いスライドを流しながら演奏することにした。日本各地の風景を見せながらそこにちなんだ曲を演奏したのだ。
 そして五年目はスライドの内容をより患者さんに親しみ深いものに変更。春夏秋冬を病院の日常のスナップで振り返り、それに合わせて春夏秋冬にまつわる曲を演奏した。
 さらに六年目はスナップだけでなく曲の歌詞もスクリーンに表示。これによってより一緒に歌ってくれる患者さんや職員も増加。僕としても一番手ごたえを感じたステージとなった。そんなわけでこれが六年目にしてようやくたどり着いたベストスタイル。
 ただ困ったことにベストスタイルを見つけてしまうと次の手がないということにもなる。アイデアがないわけではないが僕と山平氏の二人三脚だけでやれることはもう似たり寄ったりになってしまう。せいぜいマイナーチェンジしかできない。

3.めでたい最終回
 そんな気持ちで七年目の今年をどうしようと思っていたのだが、医局に訪ねてきた彼が告げたのは「今年は別の企画を検討している」。それは二人三脚ではなくもっと協力者を増やして行なうステージであった。
 思わずストライクと叫びそうになった。そう、僕が一人で演奏する鮮度はもうゼロに近い。現状の機材でやれることはもうない。でも人が増えればできることはいくらでも広がる。そして新しい人がステージに上がればまた鮮度も回復する。
 ということで今年は新しいステージがお目見え…するかに思われたのだが、残念ながらいかんせん時間がなかった。人が増えればその分準備期間も必要になり練習のスケジューリングも大変になる。
 結局今回は無理と結論、かくしてもう一度例年どおりのスタイルのステージとなった。それならそれでよい、最終回という武器も使える。
 実際にステージではまず冒頭で宣言させてもらった。「来年はすごい人たちのステージをやります。僕がやるのはこれで最後」と。
 たかがクリスマス会の一企画でそこまで考えなくても、と思われるかもしれないが、心の医療においてエンターテイメントの要素はとても重要だ。特にクリスマス会は長年入院している患者さんも参加してくれる。いい加減な内容でお茶を濁すのは許されない。だから作業療法課のスタッフは頭をひねって毎年創意工夫を凝らしているのだ。

4.あの人は何でも知っている
 実はこれと同じことをおっしゃっている人がいる。我らが理事長である。理事長は毎月の運営委員会で「変化し続けろ」ということをくり返し僕たちに指導する。事実、この医療法人は毎年新しいサービスを開始し、新しい建物を造っている。安定や維持は停滞、変化と挑戦だけが前進。医療も新しいエネルギーをどんどん取り込んで鮮度を維持しなければいけないのだ。
 きっと理事長なら芸能プロダクションの社長になっても手腕を発揮できるだろう。

5.新しい時代へ
 そんなわけで七年間に及ぶ僕の挑戦がひとまず終わった。ちょうど平成最後のクリスマス会だったからよいタイミングとも思う。宣言した以上必ず来年は新しいスタイル、新しい仲間を取り込んでのステージになるはずである。ですよね、山平氏?

 そして今改めて感じている。音楽の素晴らしさを。社会全体をバリアフリーにするのは難しくても、音楽と言うエンターテイメントは多くの人たちが一緒に楽しむことができる。老いも若きも、富めるも貧しきも、そして精神や身体に障害を抱える者も、もちろん家族や支援者も。
 今年は最後なのであえて熱唱できる曲を選んだ。仕事の合間のステージなので発声練習もない。だから実は毎年喉が開いてなくても歌える曲を選んでいたのだが、今回は本気で歌わないとキーが届かない曲をラストソングに選んだ。一緒に声を出してくれた患者さんたち、職員のみなさん、ご協力ありがとう!少しでも楽しんで頂けたのなら嬉しい。

 それでは山平氏、二人でドアを閉めましょう。そしてまた逢う日まで!

■歴代セットリスト (一部記憶曖昧)
平成24年: ①あの素晴しい愛をもう一度②時の流れに身を任せ
平成25年: ①翼をください②時代
平成26年: ①知床旅情②上を向いて歩こう
平成27年: ①涙そうそう②長崎は今日も雨だった③瀬戸の花嫁④浪速節だよ人生は⑤なごり雪⑥北の国から
平成28年: ①さくら②青葉城恋唄③学生時代④川の流れのように
平成29年: ①赤いスイートピー②少年時代③秋桜④大空と大地の中で
平成30年: ①卒業写真②君といつまでも③恋④また逢う日まで

(文:福場将太 SPECIAL THANKS:山平主任とチームOT)

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