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コラム2016年9月「2016年学びの旅 ~サイコオンコロジー学会in札幌~」
一年前予告したように参加してきました。癌を抱えた患者さんとその家族に寄り添う学問、『サイコオンコロジー』の学会です。第29回の今回は札幌で開催され、過去最多の参加数だったとのこと。サイコオンコロジーの重要性・必要性が医療業界にさらに浸透してきているのでしょう。
今回改めて感じたのは、参加している職種の多用さです。ドクターだけでも内科医・外科医に人工透析に携わる泌尿器科医、そしてもちろん精神科医に心療内科医。ドクター以外ではナースに心理士、さらには医療倫理を専門としている人や仏教家までおられました。あくまで僕が拝聴した講演で気付いた限りですので、きっともっともっと色々な立場の方々が参加していたのだと思います。サイコオンコロジーとはつきつめれば「命とは何かを考える学問」。生と死という答えのないテーマを論ずるには誰が専門家だなんて言えません。ある会場では薬剤の調整について極めて科学的な講義がなされ、ある会場では患者の心をどう読み解くかという極めて非科学的な講義がなされ、はたまたある会場では医療倫理の是非を問う。サイコオンコロジーはもはや医学だけの枠には収まらず、理工学・哲学・社会人文学の領域までその範疇にしていると感じました。
スタッフは誰も日々の業務の中で何かしら迷いや葛藤を抱えている。きっとそれをほぐす手掛かりを求めてここに足を運んでいるのでしょう。僕自身普段癌を抱える患者さんに携わる機会はまだ少ないのですが、今回の学会で今自分が対峙している問題を考えるためのいくつかのヒントをもらいました。この「思いがけない拾い物」が学会参加の醍醐味です。
特に印象に残ったのは患者さんの自己決定権に関する問いかけ。それが主題ではないセッションの中でも度々ディスカッションされていました。精神疾患の有無と自己決定能力は関係ないのではないか、インフォームドコンセントで治療の選択肢を示し患者さんに選んでもらうといってもある程度専門家としての誘導が必要ではないか、患者本人は当然家族の影響を受け家族も社会の影響を受けている中で何をもって本人の意志とするのか、本人の決定が必ずしも本人の満足になるとは限らないのではないか…などなど、これまた答えはないけど考え続けなければならない意見をたくさん伺えました。
もう一つ印象に残ったのは、やはり『精神科』という言葉の持つイメージについて。依頼を受けて、癌を診断され気を落としている患者さんやそのご家族に会いに行くと、「精神科医?私はそんなに気持ちがおかしいですか?」と驚かれてしまう。本来精神科医は心の健康の専門家でありけして重篤な精神病だけを扱うわけではないのだけれど、どうしても気軽に悩みの相談をしていい相手とは思ってもらえないようです。この辺りはもっともっと啓蒙活動が必要ですね。
あと余談ですが今回心理士さんもたくさん壇上に立っておられたのですが、女性心理士さんは年齢を問わずみんな声質や話し方が可愛らしいのはどうしてなのでしょうか?明らかに他の職種よりもその比率が高い。話術に長けているからこそのテクニックなのか、それとも心理士資格にはボイスオーディションでもあるのか…この謎解きにもまだまだ勉強が必要です。
そんなこんなであっという間の二日間。世間は連休ということで観光旅行などを楽しんだ方も多かったでしょうが、こんな学びの旅もよいものです。ちょうど学会最終日に大学時代の友人が仕事で北海道に来たので夕食を共にしました。集ったのは眼科医・外科医そして精神科医。サイコオンコロジーのこともちゃっかり宣伝しておきました。
ある友人は先日Dr.パッチ・アダムスを訪ね一緒に泥のプールに入ってきたという話をしてくれました。それもまた癒し。う~ん、命とは本当に奥深い。
最後になりましたが、今回の学会参加のために段取にお骨折り頂き、当日も付き添いをして下さったすずらん総務課のみなさんに厚くお礼申し上げます。
(文:福場将太 写真:こちらすずらん会江別すずらん病院内総務課)