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コラム2024年10月「十八年の上梓」
精神科医になった時に思ったのは、文章を書く業務が多いということだ。そして自分は全くそれが苦ではない、むしろ愛しくさえある。
子供の頃、父親のワープロで初めて自分で撃った文章が活字になって感動したのに端を発し、中学時代にパソコン部でブラインドタッチを身に着けたことも加わって、いつしか執筆は自分のライフワークの一つになった。
医療の記録や論文で何時間もパソコンを打った後でさえ、家に帰ればまた執筆。コラム、小説、作詞…それぞれテイストは違うけれど、文章を綴る作業に没頭するとどこか心が癒される。連休などはずっと指を動かしていて気付けば夜明けなんてこともざらである。
そんな下手の横好きの執筆愛好家なわけだが、好きこそ物の上手なれ、そして継続は力なり、この度一つの書籍を出す機会に恵まれた。
詳しい経緯は割愛するが、出版社さんからお話をいただき、かなりの短期集中作業ではあったものの無事に上梓することができた。
タイトルは『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』。難しい医学の専門書ではなく、心の健康について、物を見るということについて、自分なりに綴ったエッセイ集。いきなり本一冊分のアイデアが浮かんだわけではなく、これまで毎月書いてきたこのクリニックのコラムがあったからこそ、助走をつけて大きなジャンプが無理なくできたような気がする。
まあ普段患者さんにアドバイスしていることもたくさん書いてしまっているので、先に読まれてしまうと「それもう知ってます」と言われかねないが、患者さんにとって、あるいは今何かに迷ったり苦しんだりしている人たちにとって、探し物を見つける小さなきっかけになれたら嬉しい。
美唄に着任して今月で丸十八年。この街で見つけた心もたくさん書かせてもらった。今、改めて思う。
人生とは、生きてみるものである。
●『目の見えない精神科医が、見えなくなって分かったこと』 サンマーク出版
https://sunmarkweb.com/n/nf1174c822a7c
(文:福場将太)