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コラム2024年03月「目の前には境界線」
昨年夏に引き続き、またNHK北海道の取材を受けてそれが『北海道道』という番組で紹介された。正直まだまだ道半ば、テレビで取り上げていただくほど何かを成し遂げたわけではないからと当初はお引き受けするかどうか迷っていた。
打ち合わせをする中で、「精神科医は冷静に患者さんを見定めるのが仕事、だから会話して笑っていても患者さんとの間には一線を引かなくてはいけない寂しさがある」という話しを僕がすると、ディレクターさんは「だからこそ患者さんと同じ街で暮らしてバランスをとっておられるのではないですか?」とコメントした。
これには驚いた。今までそんなふうに意識したことはなかったが、確かにそうかもしれない。クリニックに通う患者さんの多くはこの街で暮らしている。同じ空気を吸って、同じ季節を感じている。
実際に放映された番組でも、ディレクターさんは診察の中で僕が患者さんとしている世間話に注目してくれていた。「また雪が降っちゃいましたね」などの何気ない日常会話だが、そんな言葉が自然に出るのは同じ街で暮らしているからというのも大きいのかもしれない。そしてそんな話をしている時は、患者さんとの間の一線をあまり意識していない自分がいることにも気付いた。
精神科において確かに境界線は重要だ。一方で医療者と患者さんには同質性も必要であり、けっして別世界の人間であってはならない。
みんなこの街で暮らす同じ人間なのだから。
(文:福場将太)