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コラム2023年7月「本人の意思」
現代の医療で最も大切にされているのは患者さん本人の意思である。特に精神科では本人の意思を無視して強制的な医療を行なってきた長い歴史があるため、ことさら本人の意思というものを支援者は敏感に意識している。退院したい、一人暮らししたい、就職したい…患者さんがそんなステップアップを願って支援を受けながら一歩ずつ実現に向かっていくのはとても素敵なことである。
では患者さんの願いがステップアップではなかった場合はどうだろう。支援者の目から見てステップアップできる力を持っている患者さんが、現状維持がいい、あるいはステップダウンしたいと望んだ時、支援者はそれも本人の意思として支援するべきなのだろうか。
もちろん支援は本人の満足のために行なうものである。患者さんが不満足で支援者だけが満足している支援はおかしい。本人はしたくないのにその能力があるからステップアップしなさいというのは支援者のエゴだ。
しかし一方で、したくない、やりたくないという願いをどんどん叶えるのは支援者の氏名とする回復のサポートに反するのではという考えもある。堕落するのも本人の意思として認めるべきなのか、それともやれる能力を持っているのなら本人のやる気を出せせるところまで支援者の役割なのか、そして支援者が出させたやる気は本人の意思なのか。
教師をしている友人に話しを聞くと、勉強をする環境を整えてあげることはできても実際に学ぶかどうかは学生の意思なので、やはりそこは難しい問題という。能力とやる気は必ずしも相関しないもの。あるいはやる気も能力の一部と捉えるべきなのかもしれない。
それでも心の医療において、多少のお節介は必要だと思う。ただやり過ぎて支援が支配になっては絶対にいけない。そんな力加減を悩み続けるのも僕らの仕事、しかし悩めば悩むほど患者さんのためになるとも限らない。
割り切るのがよいのか、悩み続けるのがよいのか、何年経ってもやはりこの仕事は奥深い。
(文:福場将太)