コラム

コラム2023年5月「心の窓を開いてごらん」

 長い長い冬が終わって北の大地にも春がやってきた。桜が咲いた後でも雪がちらついたりストーブが必要だったり、なんだか寒さが往生際悪く居座っていたけれど、ようやく気候も落ち着いてきたらしい。
 春になると何が嬉しいって、一番は家の窓を開けられること。窓を空けて家の中に風を迎え入れる、同時に家の中の淀んだ空気を外に解き放つ。ゴールデンウイークもそうやって部屋掃除をしてかなりすっきりした。

 そういえば学生時代に夢中になったzardというバンドの楽曲に『心を開いて』というのがあった。心を開くってどういうことだろうと考えた時、それは窓を開くのと似ているように思う。相手の気持ちを迎え入れる、自分の気持ちを解き放つ、どちらも勇気がいることだけどとっても素敵なことだ。

 心の医療においても、患者さんの心が開いたと感じる瞬間がある。これはもう理屈じゃなくて感覚的なことだけど、診察室で話をしていてふとそんなふうに感じる瞬間があるのだ。特にずっと重たく閉ざされていた扉が開いた時には感動さえ覚える。
 そしてまた、自分の心が開くのがわかる瞬間もある。冷静に診断するためにできるだけ自分の心にはしっかり鍵を掛けているつもりだけど、やっぱり人間、ついつい素直な気持ちがこぼれ出てしまうことはある。患者さんと医療者、お互いの心が開くことが必ずしも治療上有益とは限らないけど、それでも時にはちゃんと開いておかないと錆び付いてしまうだろう。

 さあ、窓を開けよう。風を入れよう。春の空気を胸いっぱい吸い込んで、思いっきり解き放とう。ついでに心の窓も。坂井泉水さんの素晴らしい歌詞を引用すれば、つまりはこういうことだ。

 それが誤解や錯覚でも、心を開いて。

(文:福場将太)

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