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コラム
2021年07月「時には真珠のように」
不摂生をして、体調を崩して病院に行って、診断がつくまでヒヤヒヤして、治療が始まって楽になったらほっとして、もう二度とくり返すまいぞと誓って摂生して、喉もと過ぎれば熱さを忘れてまた徐々に不摂生して…人間というのは得てしてそんなことのくり返しである。
ちゃんと食事制限しなさい、真面目にお薬を飲みなさい、規則正しく生活しなさい…なんて僕ら医療者は簡単に言ってしまうけど、それをする患者さんは大変。そりゃ期間限定なら頑張れるだろうけど、ゴールが見えないマラソンを続けるというのは苦行である。高血圧・脂質異常・糖尿病といった慢性疾患の治療はそこが一番大変だと思う。
精神科の疾患も慢性的な経過をたどるものが少なくない。患者さんが診察をすっぽかしたり、お薬を飲み忘れたりするとつい僕らは目くじら立ててしまうけど、みんな人間だもんね、いつも優等生でなんていられない。
こんな殊勝な気持ちになったのは、先月自分自身が久しぶりに患者体験をしたから。具合が悪くなって運ばれる時、病院に到着した時、まだ処置も治療も始まっていなくてもそこに医療者が寄り添ってくれるだけでとても安心するものなんだと実感した。「すずらんクリニックに通われているんですね?」、「いえ職員です」というやりとりをくり返すのはなんともいえない気分だったが、今の自分はあくまで患者、業界人の悪い癖が出ないようにちゃんと先生や看護師さんの言うことを聞いたつもりである。
ちょこっと失いかけただけでもこんなに有難味を感じる健康という宝石。色がくすんだりヒビが入ったり、角が欠けたりした時に優しくくるんで修復するのが医療者の仕事。
これからも患者さんたちの宝石をお預かりしたら、丁寧に丁寧に磨きたいと思う。
(文:福場将太)