コラム

2013年05月「真実を見極める力」

 『ニュースショー』なんて言ったりするが、確かに多くの報道番組にあまりにも演出が施されていることが気にかかる。事件が起これば再現映像を作り恐怖をあおるBGMを流す、挙句にはCMをまたいで情報をもったいぶったりする。もちろん不謹慎という観点からも批判すべき事態だと思うが、もっと重要な問題は『真実が正確に伝わらない』ということだ。実際に何が起こったかなんてただでさえなかなか伝わらないものだ。それに演出を加えてしまってはいったい何を報道しているのかわけがわからない。大切なのは出来るだけ情報を性格に歪みなく多くの人に届けることではないか?その上で情報を受け取った者たちが善悪を吟味しなくてはいけない。極端な言い方をすれば例えば暴力事件があったとして、『撲った方が悪い』という印象を増強する報道は危険だ。別に暴力を正当化するつもりはないし撲られた方が悪いということではない。それぞれの人物像・事情・いかなる経緯で暴力に至ったかということをよく知らずに、『暴力』というキーワードだけで善悪を判断するのは愚かで罪深い。『暴力』『いじめ』『体罰』『自殺』なんてキーワードが説明に入ってくるとすぐに「また起こりました!」と悲劇を演出し、悪いのは誰かを印象付けようとする。しかし、同じキーワードが入っている事件でもそれぞれ人物も事情も異なる全く別の出来事だ。それなのに報道では出来事が一緒くたに記号化され世論だけでなく行政までもが記号的な解釈・対応をしてしまっているように思う。もちろん起こった出来事は悲しいものだ。被害者やその家族が感情的になってしまうのは人間として当然だ。だからこそ第三者は冷静にそして公平に真実を見極めなくてはいけない。被害者側が加害者側に対して「許さない!殺してやりたい!」なんて言っている映像が平気で流れていたりするが、これも危険な報道だと思う。「二度とこんなことが起こらないようにしっかり考えよう」という気持ちを啓発すればいいのだが、昨今の報道では「許せない加害者だ。早く罰を与えねば」という復讐心だけを悪戯にあおっているように思う。そして加害者や責任者が罰を受ければ社会正義が全うされたように報道する…これではいつまでも事件はなくならない。家族の悲しみをないがしろにしようという意味ではないが、報道まで感情的になってはいけない。

 またもう1つわけがわからないのがそのニュースショーでコメントしているゲストたち。何故この人たちの見解を全国に流す必要がある?真実を見極める手助けになるのはやはり多くの事例を経験している専門家の見解だ。教育関連で起こった事件なら教育の専門家、法律の解釈をめぐる事件なら法律の専門家の見解を私は聞きたい。殺人事件が起こっているのに最近賞を取った作家や大企業の社長などがゲストに招かれ事件についての見解を述べることに何の意味があるだろうか。専門家と素人の大きな違いはその発言に責任が伴うかどうかだろう。思ったことを言うだけなら誰にでもできる。言論は自由だ。しかしテレビ番組によって大勢の人に影響を与える立場で発言をするのであれば、やはりそれは知識と経験を持ち責任も伴う人物にお願いしたい。

 …とまあ偉そうなことを書いてきたが、きっと私なんかが主張しなくても真実を伝えることの大切さは報道に関わる人間なら誰もがわかっているだろう。真実がどれだけ神聖なものか、私よりもずっと知っているだろう。それでもニュースをショーにしなくてはいけない事情がきっとあるんだろうなと思う。正しいことができないもどかしさはどの業界にでもある。だからこそ、私たち情報を受け取る側の人間にも鵜呑みにしない努力、惑わされない注意が必要だ。演出された報道から何が真実かを見極める力、無責任な発言に同調しない勇気が必要だ。マスコミの力を使えばどんな人物だって誉めようと思えば誉められる、けなそうと思えばけなせる。どんな言動も演出次第で善にも悪にも見える。悲しい出来事をくり返さないために全員が省みなくてはいけないことは何か、本当に論じ合わなくてはいけない争点は何か、私たちは演出だらけの報道から見極めなければならない。

 インターネットの普及により、誰でも全国に自分の見解を発表できる時代だ。何か事件が起こればそれに対していくつものコメントが書き込まれる。根拠にならない根拠を掲げて、いかにも真実のような顔をしてのさばっている情報がネットの中にはたくさんある。活字でそれらしく書かれているとついつい信じてしまいそうになるが、堂々と誤りが載っていることはけっして少なくない。このコラム自身もそうだ。読んでくれた人たちが考えるきっかけになってくれたらいいと真剣に書いているが、責任が弱いという意味ではネットの掲示板に投稿される浅はかな書き込みと同じだ。けして鵜呑みにせず吟味してほしい。あなた自身の、真実を見極める力で。

真実を見極める力

(文・写真:福場将太)

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