コラム

2007年12月『心のロード・ヒーティング』

 美唄は豪雪の街だ。一晩で数メートル積もることもあるという。今年もすっかり街は真っ白である。
 というわけでまさに正真正銘の雪国の冬なのだが、雪国には雪国ならではの常識がいくつもある。その中のひとつが、『ロード・ヒーティング』だ。

 私が始めて北海道に来た頃、一面の雪の中にそこだけきれいに雪がない一本の道があることをとても不思議に思った。人がよく通る道だから、除雪屋さんがこまめに雪をとっているのだろうか……しかしこんなに降り続いているのだから、それこそ10分おきくらいにとらないとすぐ道が埋まってしまうなあ、と思ったものだ。
 職場の仲間に教えてもらったのだが、その雪のない道の正体が、『ロード・ヒーティング』だったのである。みんながよく使う駅前などの地面の下には、雪を溶かすための熱を出す機械が埋められていて、そのせいでそこだけは雪が積もらず、整備されたように正確な道が雪景色の中に出現する、というわけだ。
 雪がない季節にはまったく気づかれず、どこにその道があるのかもわからないのに、雪が積もるとその道がくっきりと現れる……。もしかしたら、私たちの心の中にも、似たようなものがあるかもしれない。
 穏やかで安定しているときにはよくわからなくて、悲しみや不安に覆われたときにくっきりと出現する一本の道。けして雪に隠されることのない、確固たる道。
 それは『信念』……自分にとって何が一番大切なのかを示すものだ。
 普段何気なく暮らしているとよくわからないが、悲しみや不安に覆われたときに人間は自分の中のゆずれないものに気づいたりする。情熱によって、どんな雪も寄せ付けない自分の中の確かな道に……そう、まさにロード・ヒーティングだ。その意味では、心が冬のときというのは自分の中の確かな道を発見するチャンスなのかもしれない。その道さえ見つかれば、多少の吹雪の中でも人間は歩いていける。

 しかし、ロード・ヒーティングまで覆い隠されてしまうほど激しい冬もある。そんな時がきっと、私たち精神科医療の出番なのだろう。その人の中にあるロード・ヒーティングが見つかるまでその心を支えながら、一緒に道を探す……それが私たちの仕事。私たちが道を作るのではなく、雪を溶かすのはあくまで患者さん自身の情熱なのだから。
 道を探す気力もない……そんな時は焦らずじっと耐えていれればいい。だって、終わらない冬はないのだから。 きっとそのうち雪は溶け、必ず道は現れるはず。そのときまで、精神科医療が力をお貸しするのです。
 道が見つかったら、その道を一歩ずつ踏みしめて歩いていこう。その先にある未来をひたすらに信じて。
 まあとりあえずは、来年がいい年であるように信じて。

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