旧美唄病院コラム
2008年7月(栄養管理室)『病院のごはんが出来るまで(後編)』
前回はごはんが提供されるまでの流れのうち、献立をたてるところまでをお話ししました。今回はこの続きからお話ししていこうと思います。
献立はまず、「常食」と呼ばれる、特別な食事療法を必要としない方向けのお食事からたてることが多いです。この常食を基本に病態に合わせて献立を応用していきます。この作業を献立の展開と言います。
例えば常食でとんかつを出している時、カロリー制限の必要な糖尿の方は生姜焼きに、たんぱく制限のある腎臓病の方は野菜の肉巻きに、など献立の基準に合うメニューに展開していきます。展開の種類が多いと厨房の負担も増えることになります。献立をたてる時は栄養価や味の他に、決まった時間内に、決まった人手で作れる内容になっているか? も大切なポイントです。配膳の時間が決まっているので、良い献立でも時間内にとても作れないものでは困るし、作業中に事故が起きる可能性も高くなってしまいます。作業工程に大きく無理が生じないかも考えます。
献立が出来たら食材料を発注して、調理に取りかかります。調理師さんや調理員さんたちの腕の見せ所です。食材や調味料は基準に合わせて計算した量を使いますが、同じ材料を同じ量使って料理しても、味は作る人によって変わったりするのです。予定よりすごく美味しく出来た時は、作り方のポイントを逆に調理員さんに教えてもらったり、教わった隠し味を次回献立に加えてみたりもします。
味付けにはやっぱり、栄養価やデータで説明しきれない経験の差も影響するような気がします。火加減・切り方・調味料を入れるタイミング・調理時間などなど、影響する要因は様々です。当院の調理員さんたちはご家庭の主婦の方が多いせいか、微妙な味付けが上手で頼もしいです。毎日家族への愛情をパワーにお料理しているから、美味しく作れるようになるんでしょうか。食材は生産地や時期などによって味が変わるので、調理員さんたちのさじ加減は美味しいお料理を出し続けるのに大切な役割を担っていると思います。
お料理が出来たら盛りつけをして、いよいよ配膳です。
病棟に行くと、患者さんたちにいろいろなことを訊かれます。「田楽って何?」「今日の天ぷらは1人何個つくの?」カレーやラーメンなど人気メニューの時は数日前から質問されたりします。今日のごはんは喜んでもらえるかなー? と最終チェックをしたお食事を出していきます。
ごはんが終わり、食器と残菜が下がってきました。下膳をした後、残菜が少ないと調理員さん達もにっこり。「今日の食事、美味しかったんだね。」とみんなでにんまりします。逆に残している人が多い時は「何が良くないのかな〜」「このおかず、特に残ってるから味が物足りないんじゃない?」と話したりします。残菜はたくさんの情報が詰まっているので、ここで気付いたことを次に生かして、新たに献立を考えていくのでした。
ということで簡単でしたが、栄養管理室の仕事のうち、お食事の提供についての大まかな流れをお話ししてきました。提供するまでの舞台裏が少しでも伝わったでしょうか? いつか皆さんが病院のごはんを目にした時、そんな作り手たちの存在を思い出してもらえたら嬉しいです。どの病院の栄養士さんも、調理員さんも、患者様の喜ぶ顔が見たいはずです。
最後に、最近読んだ本に載っていた言葉をご紹介します。
「おいしいごはんを作るには『お金』をかけるか『手間』をかけるか『時間』をかけるか『知恵』をかけるか、そのどれかをかければいい。お金をかけなくたっておいしいごはんは作れるし、人生だってそれと同じ。『時間』がなければ『知恵』を使えばいいとよ」 (宮成なみ著『奇跡のごはん』より)
これは食事療法の必要な難病に冒された著者のお母さんが、よく話していた言葉だそうです。お母さんが娘の体を思って作るごはんには、きっと体だけではなく、心にも素晴らしい効き目が込められていたのではないでしょうか。
心と体においしいごはんを出せるよう、私たちも知恵を絞ってこれからも頑張っていきたいと思います。皆様にも毎日おいしいごはんが届きますように!