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コラム
2022年10月「人間の証明」
健康が何よりだと人は言う。家族みんながいつまでも元気でいれたらいいねとみんな言う。もちろんそれはそうなのだが、実はそれが天文学的な確立の奇跡であることをこの仕事をしていると思い知らされる。
街を歩けば笑っている人が通り過ぎる。レストランに入れば団欒している家族がいる。テレビをつければ旅行を楽しむ人たち、結婚や出産を喜ぶ人たちがいる。
それだけ見ればみんなとっても幸せそうだけど、ただ表には見せていないだけで、悲しみや苦しみがない家庭は一つもない。病気や事故、事件や災害、悲しみはある日突然訪れるし、平穏はある日突然終わりを迎える。自分や自分の身の周りの人たちにずっと何も起こらないなんてことは有り得ない。それが当たり前である。人間はいつか奪われてしまうものを必死に抱きしめながら生きているようなものだ。
ただ、だから不幸ということではない。誰にでもそれぞれの悲しみがあり、苦しみがあり、その中でも手にする喜びがある。永遠ではないからこそ今の平穏を、自分の可能性を、愛する人と過ごせる時間を大切にしようとするのだ。
幸せは嬉しいこと、そして悲しいこと。思い切り泣こう、思い切り笑おう。医療の役割は人間を神様にすることではないのだから。
(文:福場将太)