コラム

2022年05月「新しい夢を」

 かつて美唄の山奥に古い精神科の病院がありました。入院したら帰れない恐怖の病院と噂され、その悪名は北海道全域に広がっていたそうです。日本の精神科医療が辿った負の歴史を集約したようなその病院はやがて建物も老朽化し、多くのスタッフが去っていき、行き場のないたくさんの患者さんだけが取り残される形となりました。
 しかしあきらめなかった新しいリーダーのもと、立て直しの動きが始まります。去らずに残った仲間たちが結集し、消えかけた小さな小さな火をみんなで守りました。そしてこれまでの当たり前に囚われず、時代に合った新しい当たり前を模索しました。やがてそれは、山奥の精神病院を市街地の駅前へ移転させるという一大事業へとつながったのです。

 そうやって『美唄希望ヶ丘病院』が『江別すずらん病院』に生まれ変わったのが2012年5月のこと。つまり新時代が始まって先月で丸10年を向かえ、現在11年目に突入しているわけです。新しい夢を
 改めて思うのは、あの時小さな火を守ってよかったということ。消えそうな火を消すのはおそらく簡単でした。それでも火をなんとか燃やし続けたからこそまたそこに新しい仲間が集まり、やがて大きな炎になって未来を照らしたんだと思います。悲しいこともたくさんありましたが、心の医療者として一番大切なことをあの時学べたと思っています。

 もちろんまだまだ課題は山積み。10年の節目はただの通過点ですが、ひとまずの記念としてこの度一冊の本が発刊されました。タイトルは『心ばかりの医療ですが』、現在江別すずらん病院で働くスタッフが心の医療に対する思いを綴ったエッセイ集です。美唄すずらんクリニックのことにも触れられています。一般書店や病院の受付でも扱われる予定ですので、ご興味のある方はお手に取ってみてください。

 これまでの10年、新病院という夢はひとまず叶って走ってきたけど、これからの10年にはまた新しい夢を描いていかなくてはいけません。美唄すずらんクリニックも地域医療を担うサテライトとして、まだまだやるべきこと、やりたいことがたくさんあります。
 さあ、シーズン2の幕開けだ! もっとうねってみせろ、風のすずらん会!

(文:福場将太)

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