コラム

2020年04月「人間らしく」

人間らしく

 ネット、ゲーム、SNS、買い物、盗撮…と様々な依存症の温床になっているスマートフォン。精神科医としても個人としても、IT機器の進化にはあまり良い気がしていなかったが、ここにきてその存在を見直すに至っている。新型コロナウイルスの感染拡大、毎日ニュースを見るのが憂鬱になってしまいそうな情勢だが、それでもこれ以上の悲しみを阻むためには、ちゃんと正しい知識を得て、みんなで外出を自粛するしかない。
 しかしなかなかこれが大変。普段だって出掛けずにゴロゴロしている週末なんてざらにあったが、出てはダメと言われて家にいるのは感じるストレスが全く違う。いかに家の中だけで心の平穏を保つかというのが大きな課題である。

 そこでスマートフォンやパソコンが活躍する。家にいながらでも仕事をしたり、他者と交流したり、情報をやりとりしたり…そういったことがこれらのIT機器のおかげで可能となるのだ。メールやラインでの情報交換、チャットでの会議、テレビ電話を介してのオンライン飲み会、テレワーク、映像や音楽・小説といったコンテンツを楽しむ…などなど、IT機器はたくさんの願いを叶えてくれる。技術には善も悪もなく、全ては使い方次第なのだと再認識した。

 一方でこうも思った。IT機器は便利だけど、やはりそれだけでは満たされないのだと。電車に乗ればほとんどの人がスマートフォンを見ている、子供たちは外で遊ばずオンラインゲームで交流する、直接会ったこともないSNSだけの知り合いを躊躇なく友達や恋人と呼ぶ…そんな新しい常識に恐怖を感じていたけれど、今回直接人と触れ合えなくなって多くの人がストレスを感じていることに安心した。スマートフォンさえあれば幸せ、それで人とのつながりは事足りる…なんて、やっぱりそうはならないのだ。直接挨拶して、手を握って、肩を叩いて、抱き合って、たまには喧嘩して…そうでなければ人間は生きていけないのだ。学校に行けなくてつらい、部活ができなくてつらい、友達と遊びに行けなくてつらい、仲間と飯が食えなくてつらい…、人は一人では生きていけない。今回の事態で、忘れかけていた大切なことを思い出せたのかもしれない。

 当クリニックもデイケア中止に踏み切った。その間に、安全なデイケア再開の方法を模索しよう。みんなで人間らしく生きていくために。

(文:福場将太 心の写真:カヤコレ)

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