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コラム
2016年4月「目指せ、メジャーデビュー!」
医師の仕事は何だろう。もちろんそれは病気の治療をすることであるが、医師免許を有している者が必ずしも臨床に立って患者さんを診ているわけではない。研究室で病気のメカニズムの解明に当たる者、教壇に立って医学生たちを育てる者、保健所で地域全体の健康を守る者、厚生労働省で国の医療システムを考えていく者…それらもまた医療の発展に貢献する大切な仕事だ。
そしてもう一つ、大切な医師の仕事がある。それは講演会などを行なって医療についての知識を広めていくこと。特に精神科医療ではその活動がとても重要に感じる。
改めて言うが私は精神科医である。しかしながら勤務している病院の名称には「精神」の文字は入っていない。それが何故かということはすぐにお察し頂けるだろう。そう、○○精神病院とか△△精神科クリニックといった名称では患者さんが通院しにくくなるからだ。我が国では「精神」という言葉にどうしても暗いあるいは怖い印象がある。ただ実際は「からだ」を「身体」と呼ぶように、「こころ」を医学用語で「精神」と呼ぶだけの話。「精神」という言葉は何ら悪いものではないし、精神科とは心の健康を扱う科、精神科医とはそれが専門の医者のことである。
にもかかわらず「精神」という言葉に憑りついたマイナスイメージの根は深い。そのために病院名をやわらかいものに変えたり、精神科医なのに心療内科医を名乗ったりしなくてはいけない妙な現状があるわけである。
もちろん私だってこの仕事をしていなければ、そんなこと知らずにいたに違いない。本来知識とは必要に迫られた時に学べばそれでよい。しかしながら厄介なことに、精神科に関する世間の認識は無知ではなく偏見に満ちてしまっている。つまり誤った知識が横行しているのだ。そして一番問題なのは、そのせいで患者さんの回復が大きく阻害されてしまっていること。病気のせいではなく偏見のせいで、社会生活が困難になっているのだ。
だから精神科医療にこそ広報活動が大切なのである。別に現実以上に良いものだと捉えてもらおうというわけではない。心の病気とはどんなものか、その治療とはどんなものか…ただ当たり前のありのままを知ってもらうだけで、患者さんの回復も治療者の支援も随分スムーズになるに違いない。
実は今回このテーマでコラムを書こうと思ったのは、先月・今月と美唄の街で講演会をさせてもらえる機会に恵まれたからだ。先月はオレンジカフェという福祉喫茶での「みんなで学ぼう心の医療」、今月はコア美唄というデパートでの「元気な心でいるための7つの方法」。どちらも精神科医療というものを身近に感じてもらうことを目標にしたつもりだ。まだまだつたない講演で、改善すべき点・工夫すべき点も数多い。でもこれは本業じゃないなんて言わずに、広報も大切な医師の仕事として腕を磨きたいと思う。一人でも多くの人に、心の医療知ってもらうために。
わかっている、大切なのは力加減。「偏見の払拭だ!」「差別の撤廃だ!」と声高に叫ぶ方法もあるが、やり過ぎるとそこにはどこか近寄りがたい雰囲気が生まれてしまう。精神科医療においてはそういった雰囲気をなくし、気軽に近寄ってもらうことこそが目的なのだからそれでは本末転倒。不謹慎な言い方になってしまうが、ある意味で楽しく、ある意味でけなげに、売れない歌手のプロモーションのように夢を見ながら今後も活動していきたいと思う。
一介の町医者に過ぎない私には新しい薬の開発や画期的な治療法の発見なんてできないけれど、正しい知識を普及する活動ならできる。それだって患者さんの健康に、そして医療の発展に繋がる大切な仕事だと信じている。
(文:福場将太 写真:カヤコレ)