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コラム
2015年01月「行き先の分からぬ時代に」
美唄市医師会
美唄メンタルクリニック
鈴木裕人
※今回の新春特別コラムは、美唄メンタルクリニック院長が『北海道医報』の2015.1月号に掲載させて頂いた『新春随想』から引用したものです。
掲載につきまして、ご快諾いただいた北海道医師会事務局様へ心より感謝申し上げます。
2015年(未年)が明けようとしている現在、1955(昭和30)年生まれとのことで、ご依頼を頂きました。久しく文章を書いていなかったので、たいへん恐縮に存じております。
さまつなことながら、12歳になる年に、市の広報('67年1月号)に「新年の抱負」的メッセージを載せていただいた記憶がよみがえり、その5倍もの年齢に達してしまった今回、廻りあわせのような感慨を覚えます。
早いもので、現在の職場に来ることができてから、既に3年目の冬かと驚くほど、時間の経過が速く感じられます。経験上、週・月・年といった単位が速く感じられた所は、すべて良い医療機関であったし、事実今も恵まれていると、常々うれしく思っています。
現職場について述べますと、
Ⅰ)デイケア・センターDayCareCenter(以下DC)
当科領域の場合、普段の生活で孤立し、所在なさから不安になられる傾向の多い患者さん方のために、具体的には①安心できる『居場所』づくり②生活リズムの改善③「就労支援」-を主な目的とする「リハビリの『場』」であり、専門の資格を持つ各スタッフによる、多様な内容のプログラム(手工芸、運動、レク、学習会、調理実習、バスによる遠出もある外出等)を通して、規則的な生活習慣の形成、他者との日常的人間関係を保ち、安定的な環境の提供を企図しております。
(なお、美味しく栄養上も理想的な食事(昼)が付き、デイ-ナイト・ケア(8:30〜18:30)の方は夕食も…)
Ⅱ)外来
(上記DC通所者はむろん)、外からの、不安、不眠、(器質的病因がなくても)自覚的につらい身体症状、増え続ける高齢者とそのご家族をめぐる深刻な問題への診療・対応が主。さらに、直接来られない方々への訪問診療・看護も付随します。また、入院加療の方が好ましい方の場合は、ご本人・ご家族の十分な同意を得たうえで、(当クリニックの)本院である江別すずらん病院を紹介・受診していただくシステム、となっています。
赴任以来、何よりも、優秀な同僚のF先生と、(当科領域)専門の各スタッフの有能さ・熱意ある仕事ぶりに援けられてきました。同僚(というより、他科出身の私にとっては大先輩である)F先生の、非常に高い臨床能力、月300人以上の患者さん方を、その方々個々のバックグラウンド(既往やご家族の情況等)を考慮の上での、論理的で包容力に富む実績ある診療は、他科出身の私にとって、師匠と仰ぐ次第です。
また、全体の運営という重責を担っているH課長のリーダーシップは実に優れ、それ故の心労は如何ばかりかと察します。
以上、内輪褒めでも宣伝でもなく、まったくの客観的現況とお察しいただければ幸いです。
視線を外へ向けると、90年代以降、(当科のみならず)医療・福祉をとりまく状況は厳しさを増す一方であり、確実に窮迫化してきているように感じます。
私が過ごした、学部4年目の各科ブロック実習、研修医2年間(東邦大学大森病院小児科・周産期センター、相模原協同病院)にあたる80年代当時の日本社会には、何となく明るく華やいで、多様な可能性や未来への楽観的な期待感があったように思います。
全くの私事ながら、ある科の修了直後の21〜22時ごろから、実習仲間6〜7人で初代プレリュードとガゼールに分乗し、サンルーフ全開のまま首都高や第三京浜経由で、本牧の「力車(りきしゃ)」や、実習指導医のDr.のおごりで六本木の「バードランド」で3時(AM)ごろまで過ごしたり…と、今でもノスタルジックに回想します。
残念ながら、昨今は(国の内外を問わず)逼迫した経済情勢や、没個性化、犯罪、貧困、さらに平和と安全への脅威等、不安ばかりが先立つ世情です。
万事が内向きとなり、個人の関心や、楽しみ、活動範囲が限られてくる時、私に一つの示唆を与えてくれる存在として、アメリカを代表する詩人、エミリー・ディキンソンのことを考えます。彼女はピューリタニズム濃厚な19世紀ニューイングランドに生き、真剣に考え抜いた上で『信仰告白』をせず、(当時の)最高学府を辞め、教会からも次第に遠のき、数度の遠出の他は、生涯生家に在って、驚くべき深遠さと内容(例えば、激戦地での致命傷で死にゆく兵士の耳に、はるか前線から聴こえてくる自軍の歓声、といった不思議な感覚)の詩を、(生前公表することもなく)多数遺しました。
思うに今現在は、じっくり内省を深め、学び、次の時代への準備をする機会なのかもしれません。新年に際し、北海道医師会の先生方のいっそうのご活躍・ご健康をお祈り申し上げます。
最後に、文脈をうまく融合できず、このような非整合的な拙稿に携わられました北海道医報編集部の方々に厚くお礼を申し上げます。
皆様、良いお年をお迎えください。
(美唄メンタルクリニック編集委員会)