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コラム
2011年12月『心のままに』
AさんとBさんは友達です。BさんとCさんも友達です。でも、AさんとCさんは友達ではありません。そんなことがよくあります。
DさんとEさんは恋人同士でした。でも今は他人です。そんなことがよくあります。
・・・いつからでしょう。人間関係と言うものを意識して意識して生活するようになったのは。生きていく上でそれが必要不可欠な能力になったのは。思えば幼い頃はそんなこと何も考えずに暮らしていた。好きだから一緒に遊んだり、嫌いだからケンカをしたり、心と行動はいつも一致していた。友情や恋愛感情はいつだって自由だった。それが今じゃどうでしょう。起こったことを無かった事にしたり、期間限定・空間限定で笑い合っている関係がたくさんあります。ふと気がつくと、心のままに触れ合っている相手なんていないんじゃないかと思ってしまいます。
メンタルクリニックの外来に訪れる方々の中には人づきあい・人間関係に悩みを抱えている方々がたくさんいます。その人たちのお話を聞いていると、「この人が言っていること、信じていることは何も間違っていない」と思うことがあります。「みんなと仲良くなりたい」「信頼できない人と仲良く出来ない」「昔は友達だったのに今はそうじゃないなんて理解できない」「間違ってると思ったからそれを注意した」「子供の頃に約束したから守っている」「好きだから他人のふりなんてできない」「信頼を裏切ることは許さない」・・・何も、何もおかしくないです。自分だってかつてはそう思っていた。それが当たり前だった。この世界で行きていくためにそんな気持ちを1つずつ押し殺してきたけれど、この世界の汚さや矛盾を容認してきたけれど・・・間違っているのはむしろ私たちのほうなんじゃないかと思います。素直で、純粋で、勇気があって・・・好きだという気持ちや正しいと信じる気持ちを偽ることなく生きていく・・・何もおかしくありません。しかしそんな人たちが人間関係からはみ出し、周囲から孤立し、そして患者と呼ばれてしまう・・・うそをつく人間が、空気を読める人間が、人間関係に損得勘定をする人間がこの世界では大多数だから。患者さんたちの純粋な涙を前に、私は自分がとても恥ずかしくなります。私の心なんて・・・とてもお見せできるものではありません。いくつもの感情を押し殺し、間違っていることを間違っているともいえず、平気で嘘をついたり逃げたりする・・・そんな自分がこの純粋な勇者たちに何を助言できるというのでしょう。「もっとうまく生きましょうよ」・・・白衣を着た人間がそんな汚いセリフを言わなければならないのでしょうか。わかっています、夢や理想だけでは生きていけません。現実は現実、それを認識してもらうことは治療上とても重要なことです。でも・・・なんで正しいことを言っている人たちが改めなくちゃいけないんだ、そんなふうに思ってしまうのです。
正直者がバカを見る、それがこの世の中です。そんな世の中で信頼や約束、正直や正義を大切にして生きていくことは不幸で愚かなことかもしれません。でも私は信じています。そんな生き方をしている人たちしか知らない幸福が必ずあると。そんな人たちしか辿り着けない未来があると。だって彼らは何も間違っていないのですから。
もうじき新しい年がやってきます。バカを見てもいいから・・・来年は少しでも心のままに生きてみたい。そんなことを考えています。
(文:福場将太 写真:瀬山夏彦)