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コラム
2010年6月『R30』
「アンチ・エイジング」という研究がある。何千年も昔から不老不死は人類の夢であり、現代ではその夢を医学の力で叶えようとしているわけだ。確かに医学は死に抗う学問だ。しかし、人間を治すことと人間を死ななくすることはイコールなのだろうか。病死や事故死だけではなく、自然死にまで抗うことが医学の本分かどうかは、議論の分かれるところだろう。
子供の頃、テレビのクイズ番組で「一休和尚の臨終の言葉は?」というのを観た。その答は「死にとうない」…その日から私は死ぬことが怖くて怖くて眠れなくなってしまった。死はたとえどんなに偉大な人物であろうが誰も逃れることのできない運命、それは自分も例外ではないのだ。今色々なことを考えたり感じたりしている自分という存在も、いつか消えてなくなってしまう…。「いやだ、死にたくない。何で死んじゃうの?」と母親に尋ねてみた。すると母親は、「人生が永遠にあったらみんな怠けて誰も頑張ったりしなくなるでしょ」と答えた。別に納得したわけではなかったが、それからはあんまり死に怯えることはなくなった気がする。しかし、それでも時々は怖くなる。老いるということは死へと近づくこと、輝かしい光を失っていくこと…そう考えるならば、「アンチ・エイジング」という言葉に人類が憧れを抱くのも当然なのかもしれない。
つい先日、少しだけお休みをもらって久しぶりに上京した。大学時代に所属していた音楽部のイベントに参加するためだ。その名は「OBライブ」、現役の学生ではなく卒業生が出演する企画なのだ。今年の春に卒業したばかりの新米先生から今や医局をまとめる教授先生まで、幅広い世代の多種多様な7バンドが出演した。時代によって、部活を彩った音楽も変わる。
「僕たちの時代はこんな音楽をやってました。今でもこの曲は目をつぶっても弾けます」と40年前のメンバーで演奏するジャズバンド。「これは28年前に歌舞伎町で飲みながら思いついた曲です」と思い出のナンバーを熱唱するオリジナルバンド。「今でも付1回練習してます」と実力を見せつけるロックバンド…。そんなライブを観見ながら私は思った…歳をとるのも悪くないと。何故そう感じたのか、はっきりとはわからない。それでも確かにそのライブは、幸福の色に見えた。
普段北海道にいる私ははソロ弾き語りで出演した。もし客席に学生時代の自分がいたとしたら…いったいどう感じただろう。確かにもうあの頃の音は出せない。でも、今のこの音はあの頃には出せない。どっちが良いとか悪いとかじゃなくて、どちらにもそれなりの味がある。それが音楽のいいところだ。
歳をとるほど、確かに失われていくものはある。でも歳を重ねて初めてわかることがある。見える色がある。出せる音がある。思い出だって人と人との絆だって、歳をとらなければ深まることもないだろう。
20代最後のライブを終え、今素直に思うことは…。
いつまでも行きたい。
その時その時の音色を味わいながら、いつだって生きることに夢中でありたい。