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コラム
2009年6月『大人たちの嘘』
「努力すれば夢は叶う」
「信じていれば奇跡は起こる」
みなさんも一度や二度はこんな言葉を聞いたことがあるだろう。特に幼い頃、有名人のインタビューで、漫画や映画のセリフで、街に流れる曲の歌詞で……。
しかしこの言葉ははたして正しいだろうか?
かくいう私だってこんな言葉が大好きで、夢や奇跡の実現を当然のように心待ちにしていた時代があった。だが年齢を重ねれば重ねるほど、この言葉の嘘や矛盾に気づいてしまう。少なくとも、いつも正しいわけではないのだとわかる。まあそれが現実を知る、大人になるってことなのかもしれないが。
そう。確かに夢は叶う。奇跡は起こる。でも、みんなではない。
夢が叶った人は努力をしてきたのだろう。奇跡が起こった人は信じ続けてきたのだろう。じゃあ夢が叶わなかった人は努力が足りなかったのか? 奇跡が起きなかったのは信じ足りなかったせいなのか?
……多分そうではない。どんなに信じて頑張ってみても結果が出ないことだってある。私たちは年齢を重ねるほどにその証人たちに出会うのだ。そしていつしか自分もその証人になっていく。
努力は夢を実現するための必要条件ではあるが十分条件ではないのだと……でも私たちは子供の頃、なんでそんな当たり前のことに気がつかなかったのだろう。
「努力すれば夢は叶う」「信じていれば奇跡は起こる」
そう、それは結局こんな言葉を言っているのは成功者だからだ。夢が叶った人は自分の経験則からそう言うだろう。歌手は夢や希望を歌うだろう。漫画の中の主人公は、そりゃあ結局うまくいくわけだからこんなセリフを言うだろう。
しかし現実には、死ぬほど努力したけどもうまくいかなかった人たちが成功者の何十倍もいる……そのことを子供たちは知らない。目立っているのはいつだって成功者だからだ。
考えてみれば当然だ。失敗者を特集した番組なんて誰も観たくない。「一生かけて頑張ったけど夢は叶いませんでした」なんてインタビュー、誰も聞きたくない。「信じたけど奇跡はなかった」なんて歌、誰も歌いたくない。
子供たちに届けられる挑戦者たちのエピソードは、いつだって成功者が主人公だ。だから、子供たちは思ってしまう……夢は叶うものなのだ、奇跡は起こるものなのだと。
でも、現実は厳しい。みんながみんな夢を叶えるのならば世の中ヒーローだらけになる。金メダルの数には限りがある。勝者の椅子には限りがある。そして、夢を叶え続けることはもっと難しい。
人は夢だけでは生きていけない。現実問題お金がなければ生きていけない。夢を追うことだけに目がくらんで後先考えず行動する……この不況の時代にそれが賢明とは思えない。
そして夢という言葉を使えばなんでも許されるわけでもない。私たちはしがらみの中で、やるべきことはやらなくてはいけない。夢のためならどんな身勝手も認められるわけではない。
ハァ……今回のコラム、読み返してみるとつくづくかっこ悪いこと書いてるなぁ。つまらない人間になってしまったなぁ、私も。
何故だろう、一か八か夢のために人生を賭ける……人はそんな生き方に憧れる。無謀だとわかっていても憧れる。そして、多分起こらなくても奇跡を信じていたい……そういうものだ。
今、子供たちに「努力すれば夢は叶うの?」ときかれたら、私はなんと答えるだろう。
私は今日も仕事を終えて家に帰る。
部屋の壁には、「A DREAM GOES ON FOREVER」とマジックで走り書きされた一枚の紙が貼ってある。中学生の頃、そういうタイトルの曲を見つけて、何の気なしに書いて貼ったものだ。その後、何度かの引越しをしてもそのたびに捨てられず持ってきてしまっている。
もう茶色に変色して四隅から破れてきているその紙……でもまだ文字はしっかり読み取れる。
「A DREAM GOES ON FOREVER」
私はまたベッドに横になってぼんやりその紙を見ている。そしてまたひとつ年齢を重ねていくのだ。