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コラム
2007年8月『患者さんから教わること』
精神科、神経科、あるいは心療内科に限ってのことではないが、医療の現場において私たち医療スタッフ側が患者さんから教わること、学ぶこと、気づかされることは多い。
私が始めて精神科医療の現場に足を踏み入れたとき、少なからず衝撃を受けたことのひとつは入院病棟だ。精神科医療において、病状によっては月単位・年単位の入院生活が必要な場合がある。入院中は、治療のために患者さんは我慢しなくてはいけないこともあり、病院の外の世界と比べればやはり娯楽が少ないことは否めない。
この日本には、華やかな大都会で娯楽や悦楽に囲まれて暮らす人たちもいれば、入院病棟でそういった刺激にあまり触れずに暮らしている人たちもいる。私はまずこのギャップに驚いてしまったのだ。
そして迂闊にも思ってしまった。「こんなに娯楽や刺激の少ない世界で、患者さんたちは何を生きがいに生きているのだろうか?」と。
しかしこれは非常に浅はかでおこがましい疑問だ。私自身、何かたいそれた意味を持って生きているのかと問われれば、答に窮するだろう。そのくせこの「人はなんのために生きているのか」という学生時代さながらの青い疑問は、しばらく私の頭から消えなかった。
しかしこの疑問は半年ほど経った頃いとも簡単に解けた。その答は患者さんたちの笑顔にあったのだ。
患者さんたちは、時にとびっきりの笑顔を見せてくれることがある。それを見たときに思ったのだ……「あぁ、この人たちは笑うために生きているのだ」と。患者さんの中には認知機能が低下している人や、考えがうまくまとまらない人もいる。外の世界と比べればとても些細なこと、何でもないことで笑っているのかもしれない。でも、確かに患者さんたちは笑っている。その笑顔は本物だ。月に一回だろうが年に一回だろうが、そんなふうに微笑める瞬間がある限り、そこには生きている意味があるのだ。
そしてもちろん、これは患者さんに限ってのことではない。私たち人間はきっと笑うために生きているのだ。人生にそれ以上の意味が欲しい人は探せばいいし、これだけの意味でも何の問題もない。
私は、患者さんからそんなことを教わったように思う。
この『美唄メンタルクリニック』は、その名の通り外来の中で患者さんと触れ合う場所だ。診察、あるいはデイナイトケアや訪問看護の中で、私たちは色々なことに気づかされながら毎日をおくっている。
次に笑顔に出会える瞬間を楽しみにしながら。