旧美唄病院コラム
2011年7月『2011年学びのたび』
今年は日本精神科病院協会の学会が札幌で行なわれるとのことで、薬局長と一緒に行ってきました。仕事の都合で全部は参加できなかったのですが、それでもいくつか興味魅かれる発表に出会うことができました。
1つ目は「長期入院をされている患者さんの退院支援について」。入院が何年・何十年に及ぶと、患者さんの退院はなかなか困難をきわめることが多いです。受け入れてくれる家族が疎遠になってしまっていたり、住居がなくなってしまっていたり、1人暮らしをしようにも患者さん自身がその意欲を失ってしまっていたり・・・。そんな弊害をどうやって乗り越えていくか、そもそも退院を目指す目的とはなんなのか、たくさんの病院が様々な取り組みをしておられました。
かつては美唄病院も、その医療の中心は入院による症状安定に終始していました。その立地も街から離れた山奥で、多くの患者さんは入院し続けるしかない状況でした。5年前、美唄メンタルクリニックが開設され患者さんが街で生活しながら治療を続けることができるようになってからは、ようやく退院支援が動き出したのです。自分らしく生きるとはどういうことか、社会に生きるとはどういうことか・・・その答えは1つではなく僕たち治療者も迷うことも少なくありませんが、今回の学会で色々な病院の取り組みを知り、とてもいい刺激になりました。退院、それはやはり素晴らしいことであるはずです。
2つ目は「精神科の感染対策」。感染症、なんていうと内科の領域なんてイメージがあるかもしれませんが、その対策は病院である限りどんな科でも必要なことなのです。恥ずかしながら美唄病院もインフルエンザの大量発生を防げなかった経験があります。精神科の病棟は治療の場であると同時に患者さんたちの生活の場でもあります。そして、病気のせいでじっとしていられない方もいます。だから、油断すると感染症は容易に広がってしまいます。今回の学会で精神科だからこそ感染対策が必要なんだというメッセージを強く受けました。いやあ、目からウロコもたくさんでしたよ。
3つ目は「非同意入院と保護者制度の見直し」。精神科は、病状によっては患者さん自身の同意が得られなくても保護者の同意によって入院治療が行なわれる特殊な科です。もちろんそこには法律による厳重な規則や条件が定められているのですが、法律は全ての現場に万能に対応してくれるわけではありません。そして、患者さんの権利はもちろん、その保護者の権利と義務についてもたくさんの議論があります。色々な先生の見解を聞いて、もちろんあっさり答えが出るはずもないこのテーマなのですが、改めて考え直さなくてはならない、考え続けなければならないと感じました。正しさは立場によって変わります・・・患者さん、家族、治療者、ルールを作る人間、その思いは永遠に一致することは無いのかもしれません。だからこそ、自分は何を正しいとするのか、それをしっかり持っていなくてはならないのでしょう。
・・・とまあ色々な想いに心動かされた2日間。ただ1つ確かなことは、この医療に挑んでいる仲間がこんなにたくさんいるのだということです。みんな、お互いがんばりましょう!