コラム

2020年02月「幸福な残業」

幸福な残業

 働き方改革の時代、医療者だって無理せず自分の健康を大切にするのが当然だ。身を粉にして時間外労働するのが美しいなんて価値観は払拭していかなくてはならない。
 とはいえ仕事の性質上、余儀なく残業するしかない事態もあるわけで、無理をしたらその分どこかで休むことが必要になる。前日夜10時まで残ったのなら、今日仕事が片付いた時点で1時間早く帰る。杓子定規に勤務時間を制約されないことにこの仕事の醍醐味があるのだが、過労予防のためのタイムカードは時としてその辺りの柔軟さをも奪ってしまうのが難点といえる。

 また私見であるが、心の医療者の多くは好きでこの仕事をしている。強いられて働いているという意識よりも、自分がやりたいからやっているという意識の方が強い。自分の成長のために、あるいはよりよいサービスを提供するために、自ら好んで残業したい時も少なくない。
 過労とは必ずしも時間だけで計れるものではなく、その内容や心持ちに拠る部分がかなり大きい。時には苦どころか楽しくて仕方ない癒しの時間外労働だって存在するのだ。

 つい先日もこんなことがあった。退勤時刻はとっくに過ぎていたが一人残ってデイケアプログラムで使う資料を作っていた時、他の病院のスタッフから業務連絡が入った。その相談が終わった後、「まだ職場ですか?」と尋ねてみると相手は明るく「はい」と返してくれた。まあもちろんその人がどんな心持ちで残業しているのかはわからないが、僕は少なからずそこから幸福のニュアンスも感じ取った。そしてこの夜の中に自分と同じように一人デスクに向かっている仲間がいることがわかって、無性に嬉しくなった。

 くり返すが無理をしてはいけない。医療は自己犠牲でやってはいけない。でも時として自己満足な残業に身を任せたくなる夜もある。
 その点も踏まえて、自分を大切にして働こう。

 みなさん、お疲れ様です。

(文:福場将太 写真:カヤコレ)

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