コラム

2019年12月「LET IT BE」

LET IT BE

 僕は音楽を愛している。音楽というものがなければきっとやってこれなかったと思うくらい、自分にとってとても大切なものだ。だから音楽を愛好する人と出会うとたまらなく嬉しくもなる。

 心の医療においても、音楽は重要なアイテムである。デイケアにカラオケや合唱、楽器演奏などを取り入れている病院は多く、当クリニックも例外ではない。カラオケルームを利用するメンバーさんは多いし、ハンドベルを練習して近隣の施設に出張演奏をするメンバーさんもいる。僕自身も以前はギターを弾いてメンバーさんたちと歌うプログラムを毎月担当していた。普段診察室にいてなかなかプログラムに参加できない僕にとっては、デイケアに参加できる貴重な時間であった。

 近年は就労支援プログラムの担当のため、ギターでの合唱はなくなってしまったが、それでも年に一回でもそんな機会を作れたらと思っている。そんな折、今年もクリスマス会が巡ってきた。こういうデイケア行事において、メンバーさんだけでなくスタッフも出し物をするのはとてもよいこと。しかも今年は僕の独奏ではなく、新しく入職したピアノを弾ける看護師さんとの合奏。
 人と演奏を合わせるのは学生時代以来。楽しみでもあり自分のリズム感が心配でもあり、とにかく打ち合わせに入った。
 さて、ピアノを活かせる曲とは何だろう…と何日か考えていると、ふとビートルズのあの名バラードが浮かんだ。

 音楽をかじり始めた中学時代、やっぱり聴いておかねばと購入したビートルズの赤盤・青盤のCD。今でも棚に並んでいるそれを久しぶりにラジカセにセットする。当クリニックのデイケアの主流は演歌や歌謡曲であり、よってこれまで洋楽を演奏した試しはない。まあ今回は新時代最初のクリスマス会でもあるし、せっかくピアニストもいてくれるので、あえて挑戦してみることにした。

 曲が決まったら次は音取り作業。大学時代の音楽部でさんざん仕込まれた例の作業だ。楽譜が苦手だからというのもあるが、この音取り作業が僕は好き。旋律や和音を紐解いていくと、なんだか作った人の心にも触れられるような気がする。しかも今回は洋楽なので歌詞の解読もせねばならない。一曲を何度も何度も聴きながら、少しずつ曲と詞が自分の中に定着してくるあの感覚は、人生におけるこの上ない悦びである。

 五十年の時を越え、当時のポールの心、バンドの雰囲気が、あたたかく切なく伝わってくる。まさかこの曲を演奏する日が来ようとは…、不思議な巡り合わせを感じながら、今月はこの曲ばかり聴いていたように思う。

 曲名は『LET IT BE』、それは「あるがままに」の意。
 今自分はあるがままだろうか。何かに抗っているような気もするし、身を任せているような気もする。答えが出ている気もするし、懲りずに探している気もする。
 あるがままなんてよくわからないが、それでもこの曲には多くの人を惹き付けてやまない何かがある。魂を揺さぶる何かがある。
 久しぶりに聴いていると、中学時代とは違う感慨が込み上げてきた。もしかしたら、「あるがままに」とは「それでいいよ」という肯定の言葉なのかもしれないと。
 心を病む多くの患者さんは自分を否定してしまう。これまでのことを悔やんだり、これからのことを憂いだり、なかなか自分というものを受け入れられない。それでいいよという肯定は、癒しと許しのメッセージなのだ。
 今回この曲をやってみたいと思ったのも、もしかしたら今の仕事に通ずるメッセージを心が無意識に感じ取ったからかもしれない。

 そんなわけで、昼休みや放課後を利用して演奏を合わせてみる。まるで文化祭前の中学生さながらで、懐かしい楽しさを感じる。白状してしまうと、このコラムを書いている時点ではまだほとんど練習できていない。今週末はもうクリスマス会なのだが、はたしてどうなるのだろう。まさに、LET IT BE である。

 2019年ももうじき終わる。こんな自分ではダメだと叱咤しながら、今の自分でいいんだと擁護しながら、そんな一定しない心の動きも全て含めて、あるがままに生きている、生きていきたいと思う。

(文:福場将太 写真:カヤコレ)

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