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コラム
2017年8月「CATCH A COLD IN SUMMER」
医者の不養生なんて言ったりするが、僕個人に関していえばこの仕事をするようになってから明らかに健康に気を遣うようになった。患者さんの話をゆっくり聴くためには精神的にも身体的にも余裕がなくてはいけないし、それ以前にドクターが休んでしまうと特にクリニックのような少人数体制の職場では多くの方々に迷惑をかけるからだ。よって少しでも体調に異変を感じれば早めに対処するようにしている。そんな心掛けの成果か、あるいは単に若さのおかげだったのか、当法人に就職してからの11年間、体調不良で急な欠勤をしたことは数えるほどしかない。
ところが先月下旬、久しぶりに風邪を引いた。もちろん風邪気味かなと感じることはこれまでにも時々あったがそれは早めに寝るなどするだけで乗り切ってこられた。しかし今回はそうはいかず、ゴホゴホ痰が絡む咳をするような状態にまで発展させてしまった。その一因はおそらく、風邪気味かなと思った時点での早期対処ができなかったことだと思う。スケジュール上どうしても外せない仕事が重なってしまい、そのど真ん中での異変だったので誤魔化しながらもそのまま突っ切ってしまった。その結果、本格的に不調となり、ついには職場を早退する事態にまでなってしまった。患者さんにもスタッフにも迷惑をかけ、プロとしては情けない話である。
まあしかしそこは精神科医、咳き込んで苦しみながらも色々なことを考えてしまうもの。特に実感したのは心配してもらえるのはとても有難いということ、そして優しい言葉をかけられると病状はどんどん悪くなってしまうということ。正確には悪く振る舞ってしまうといった方がいいか、「大丈夫ですか」なんて言われると必要以上に弱弱しく返事をしている自分がそこにいることに気付いた。これは看護学でもよく言われることだが、支援者の優しさが患者さんを病気に甘えさせ退行させてしまう現象を身をもって体験した。それともう一つ、元気な時はなんとかこなせるスケジュールでは調子を崩すとかなり苦しいということを学んだ。業務特性上いつでも休めるようなスケジュールを組むことは不可能だが、今後はもう少し余裕を持たせておこうと思う。認めたくはないが、若さの魔法もそろそろ解け始めているようなので。
また偶然ではあったが、クリニックで行なっている『十色の研究室』というプログラムの7月のテーマがちょうど「頑張る」であった。これは患者さんとスタッフがテーマについて自由に語り合うミーティングなのだが、その中で「頑張るのと無理するのは違うのではないか」という意見が出た。おおいに納得。まさにそのとおり、今回の僕は頑張ったのではなく無理をしただけ。やはり無理は禁物である。
そんなわけで学ぶことも多かった今回の風邪ではあるが、やはり味わうのは時々にしたい。特に風邪は精神科医の商売道具である声を奪うという点でも大敵だ。今回の不調で週一回欠かさずやっているギター弾き語りの練習にも穴を開けてしまった。お仕事だけでなく好きなこともできなくなってしまうのは本当につらい。しかも夏風邪、暑いのと熱いのとでおとなしく寝ているだけでもまるで拷問。懐かしのCDたちがどれだけ心を癒してくれたことか。
みなさんも風邪にはくれぐれも御用心。特効薬はございませんのでやっぱり大切なのは予防と早期対処。無理しない程度に頑張っていきましょう。
(文:福場将太 写真:カヤコレ)