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コラム
2016年1月「±0」
失くした物が見つかった時って嬉しいですよね。ついつい上機嫌になったりします。でもよくよく考えてみると別に何も得したわけではありません。前と同じ状態に戻っただけのこと。言うなればプラスマイナスゼロであり、最初から失くし物をしなかったのと同じ状態です。それでもなんだか嬉しくて、前向きな気持ちになるのは何故でしょう。
同じようなことは他にもあって、ひいていた風邪が治った時、野球でエラーを取り返した時、壊れたパソコンを修理した時、仕事のミスを埋め合わせた時、喧嘩したけど仲直りした時…ただスタート地点に戻っただけなのに、その場にじっとしていた場合よりも元気が湧いてる気がします。
それはどうしてでしょうか。
一つは一度失ってまた取り戻すことで深まりが生じるからでしょう。確かに数値的に見ればプラスマイナスゼロでも、失うことでその価値を感じ、もう一度得ることでより深くそれについて理解することができる。無駄な動きに思えても、人間はその家庭で確実に何かを学ぶのだと思います。
もう一つの理由はやっぱりベクトルの向きかな。何かを失った時、心のベクトルはマイナスを向いている。でもそれを取り戻した時、座標としては元の0に戻っただけでもベクトルはきっとプラスを向いている。もし最初から失わなければベクトルはきっとどちらにも向いていないけど、一度下がって上がることで心のベクトルをプラスに向けることができるのではないでしょうか。あくまで精神的なイメージですが、そんなふうに感じます。
そう考えた時にふと思い出すのが学生時代。ギターのチューニングをする時に先輩から教わったこと…「高い音から弦を緩めて合わせるよりも、低い音から弦を張って合わせた方が音は狂わない」。もしかしたら心の弦もそういうものなのかもしれませんね。
震災の後にはこんな言葉を聞きました…「真の復興とは壊れた街を元に戻すことではなく前よりも良い街を作ることだ」。素敵な言葉だと思います。同じように、病気の治療でも「真の回復とは病気になる前よりも元気になることだ」と言えたらいいなと思います。でもまあ実際にはそれはとても難しいこと。現実には病気を治して元の健康を取り戻すだけで精一杯、前以上に元気になるなんてことはなかなかできません。
それでも失った健康を取り戻すことで何かを学ぶことができたなら、座標は0でもベクトルはプラスを向くことができると思います。
早いもので今年は2016年。北海道に来て丸10年を迎えます。失ったり取り戻したりしながらの10年間、立ち位置は結局0…いやもしかしたらマイナスかもしれないけど、心のベクトルはプラスの方を向いていたいです。
(文:福場将太 写真:カヤコレ)