コラム

2012年06月『HERO』

 あなたには自分もこんなふうになれたらと憧れたヒーローはいますか?自分の人生に大きな影響を与え、今でも目を閉じればそのかっこいい姿が浮かぶ存在・・・今回はそんな話をしてみよう。
 僕にとってのヒーローは3人いる。まず1人目は小学生の頃映画マニアの父親に見せられたテレビ画面の中にいた人物・・・インディことインディアナ・ジョーンズ教授だ。考古学の先生にして一歩大学を飛び出せばハットとムチをトレードマークに命懸けの冒険を繰り返す遺跡ハンター。ハンサムで知的でたくましいその姿は文句なしにかっこよかった。今でもみなさんご存知のあのテーマ曲が聴こえてくると胸が躍りだしてしまう。母親にせがんでインディに似たハットを飼ってもらい、それから中学・高校・大学と出かけるときはいつもそれを被っていた。友人を巻き込んでありもしない宝を探す冒険を企画して勝手にインディ気分に浸っていたものだ。しかしまあ運動音痴でインドア派の僕は結局インディには遠く及ばなかった。それでもあのハットは今でも宝物として北海道まで持ってきている。まあもうボロボロになってしまいインディというよりスナフキンのようにみたいになってしまっているが。

 2人目のヒーローはちょっとおいておいて、まず3人目を先に紹介するとそれはもぐりの天才外科医ブラック・ジャックだ。自分が医学部に進学した後たまたまコンビニでコミックを立ち読みしたのがきっかけで完全にはまってしまった。その後原作はもちろんアニメ版・実写版などブラック・ジャック作品を見まくった。そして周囲にあわせてうまくやることを教え込まれる大学生活の中で、ブラック・ジャックの医者としての姿は僕の心を完全にわしづかみにした。ブラック・ジャックに憧れて真夏でも黒い服を着てみたり、前髪の半分だけ伸ばして色を変えたり、あえて周囲の同級生とは違うレポートを出したりしてみた。しかし結局は凡人、ブラック・ジャックには遠く及ばずただの天邪鬼で終わってしまった。でも今でも医療の現場で迷うときにはブラック・ジャックの姿を思い出すし、1年中黒い上着とベストを着る習慣は続いている。

 とまあここまで2人のヒーローを紹介してきたが今回特に思いを込めたいのは僕にとって2人目のヒーロー、インディにはとてもなれあいなと感じ始めていた中学生の頃、この人にならなれるんじゃないかと思った憧れの存在・・・、ボサボサ頭にヨレヨレのコート、ボロボロの車にくたびれた愛犬をつれたあの名刑事・・・そう、コロンボ警部だ。  ご存知コロンボ警部は傑作ミステリドラマ「刑事コロンボ」の主人公、その画期的な構成と巧みな脚本、コロンボ警部のキャラクターが世界各国で人気を呼んだ。ここで作品のミステリとしての魅力を語りだせば朝までかかってしまうので今回はコロンボ警部の魅力について紹介しよう。外見は先述のようにさえないオッサン、しかしその洞察力・推理力は完全犯罪をもくろむインエリ犯人をもしのぎ、「必ず犯人を逮捕する」という信念はどんな状況でも揺るがない。今はこのコロンボ警部の姿は男の仕事に生きる姿として素直にかこいいと思えるのだが、正直子供の頃には怖かった。コロンボ警部は一見さえない風貌で犯人を油断させたり、純粋そうな笑顔で犯人の口車に乗って笑う。しかしもしかしたらそれらは全て計算された芝居で、心の奥底では目の前の人物を犯人と見抜きボロを出すのをまっている。おそろしい・・・一体この人の本心はどこにあるんだろう。しかしシリーズを見ていくうちに、きっと多くのファンがそうであるように僕もコロンボという人間が大好きになっていった。彼が自分の本心を口にするシーンは数少ないが、それでも彼の言動の端々に彼の生き方や信念のようなものが見え隠れする。彼は言う・・・「あたしはこの仕事が心底好きなんです」と。そしえ彼は努力型の天才であったことも明かされる。周囲のエリートからは馬鹿にされ見下され彼自身もそれに合わせて笑っている、しかしその心の中では相手に実は勝っているという自信と信念、犯罪を憎みながら時には犯人さえもいたわる。ささやかな幸福を愛しながら最愛の妻と生活する。・・・かっこいいじゃありませんか!またまた僕はコロンボ警部よろしくコートを着て中学・高校に通いやがてそれは本当にヨレヨレになり母親から恥ずかしいからやめてくれといわれながらもやめなかった。そのコートはインディハットやブラック・ジャックベストとともに今も僕の家にあるのだ。

 ちょうど1年前の2011年6月、コロンボ警部を30年以上も演じたピーター・フォークさんが亡くなった。ここ数年は新作も出ないので心配していたのだが、そのニュースは一瞬僕の心を凍りつかせてしまった。そしてコロンボファンの友人に連絡をとり、想い出を語りあった。フォークさんは片方の目が義眼であり、それは役者としていろいろ大変だっただろうなと思う。でも「刑事コロンボ」ではその視線の合わない表情がコロンボ警部の魅力となり、生涯のはまり役として白髪になるまで演じきったのだ。コロンボ警部だけでなく、フォークさんの生き方にも男の仕事の美学を感じる。近代において、これほど愛された名探偵がいただろうか。日本でも名翻訳と名声優の力もあいまってコロンボ警部はコマーシャルに出演するほど大人気、全69話を収録したブルーレイボックスが日本で世界で一番最初に昨年発売されたのもその人気の高さを証明している。

 僕はインディにもブラック・ジャックにもなれない。もちろんコロンボ警部にだって到底なれない。でも天才じゃなくたって、ハンサムじゃなくたって、周囲に何と言われても、自分の仕事に誇りと信念を持って努力を続ければ少しくらいコロンボ警部のかっこよさに近づけるかもしれない。ありがとう、僕のヒーローたち。あなたたちに憧れた気持ち、甘っちょろいガキの感覚かもしれませんが、いつまでもその思いを忘れずにいたいと思います。

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※次回よりコロンボ警部に敬意を込めて、スペシャルコラム開始!

(文:福場将太 写真:りゅうちゃん)

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