旧美唄病院コラム

2011年9月『新病院調査ファイル(1) それは江別にあった』

 私の名前はムーン、刑事である。もちろんこれは本名ではなく職場上のニックネームだ。ちなみに私の上司はカイカンなる私以上に奇異なニックネームで呼ばれている。今日はある医療法人が何やら不信な動きをしているとのタレコミを受け、カイカン警部と捜査に乗り出したわけだが・・・。私はひとまず愛車を高砂駅前のマックスバリューの駐車場に停めた。
ムーン「到着しましたよ、警部」
カイカン「・・・運転お疲れ様。それにしても君の車は相変わらず窮屈だね」
ムーン「スポーツカーですからね。それよりも目の前に見えているあれですよ、噂の建物は・・・」
 午後のまばゆい陽光の中、警部は目を細めて私の指差す方向を見た。
カイカン「・・・どうやら間違いなさそうだね。今のところまだ建設中みたいだけど・・・。看板には確かに美唄病院って書いてある」
ムーン「美唄病院がここに移転するって言うのは間違いなさそうですね。それにしてもなぜ・・・。私の調べたところによると、まずは、施設の老朽化が原因だとか・・・」
カイカン「美唄病院は古い病院だからね。希望ヶ丘病院って名前だった頃から数えるともう40年以上だし、その前の炭鉱病院を入れたらもっと長い。建物が老朽化するのも無理の無い話だと思うよ」
ムーン「そうですね・・・。移転建て直しの噂は以前からありましたし」
カイカン「それに、昔と違って心の医療は身近になったからね。今の美唄病院は交通の便があまりよくない山の中にある。入院を受け入れるだけはなくて、積極的に退院を支援していくならもっと便利な立地のほうがいいんだろう。患者さんも通院しやすいし、ご家族も入院している患者さんに会いに来やすいし。・・・もちろん、職員さんも通勤しやすい」
ムーン「確かに、ここは駅の目の前ですからね。そういえば、職員の通勤用に美唄駅から送迎バスも出るって情報もあります」
 警部はそこで車を降りて、改めて建物を見上げた。私も追って車を降りる。
ムーン「予定では6階建てとのことですが・・・今のところ建設は半分くらいですかね」

 警部は私の言葉には答えず、大きく深呼吸をした。
カイカン「・・・気持ちいい。優しい風が吹いてるね。それに、風の中に少しだけ花のかおりがする」
ムーン「この辺りはすずらんが多いって言いますよ」
カイカン「そうか、それかもしれないね」
 警部はそう言ってもう一度大きく深呼吸をする。
カイカン「美唄病院が・・・生まれ変わろうとしているんだね、きっと。少し寂しい気もするけど、長年の夢が今実を結ぼうとしているんだね」
ムーン「じゃあ、名前も新しくなるんでしょうか。いくつか噂はあるみたいですけど・・・」
カイカン「江別心療病院、という名前が就職希望の人たちには一部で囁かれてるらしいね。でも、それが真実かはまだわからないさ」
 警部はそう言って車に戻った。私もあわててそうする。助手席のシートベルトをつけながら、警部は言った。
カイカン「じゃあ次は・・・それを調べに行こうか」
ムーン「新病院の名前を、ですか」
カイカン「そう、新病院の場所はわかったし・・・まあ本当はどんな設備ができるのかも興味あるけど、それは建設が完了してからにしよう」
ムーン「わかりました。でも新病院の名前を調べるって、まずどこに行きます??」
 私はそういいながら愛車にエンジンをかける。すると警部は少し不敵な笑みを浮かべて応えた。
カイカン「大丈夫、あてならあるよ・・・このすぐ近くにね。じゃ、行こうかムーン」

 刑事カイカンとムーンの新病院調査、次回に続く!

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