コラム

コラム2019年04月「7ページ」

 平成31年4月、江別すずらん病院は8年目に突入した。流されるのではなく波を作れという理事長先生の舵取りのもと、一隻の母船と三艘の舟は新時代へと突入していく。また忙しくなりそうだが、その前に毎年恒例のこのコラム。平成30年度を振り返り航海日誌の7ページ目を記しておこう。

 最も大きな出来事はやはり9月に北海道を襲った地震であろう。停電と断水、それは一般家庭の生活はもちろん、病院の診療にも致命的なダメージを与えることを職員は身を持って体験した。特に今はデジタルの時代、処方箋一枚発行するにも電気が必要なのだ。非常電源はあるが全ての設備を補えるわけではない。限られた条件の中でいかに病院機能を維持するかが課題となった。

 まずは外来。患者さんの中には毎日の内服が病状安定に不可欠な人も多い。例え停電で調剤機が動かずとも何とか薬を処方しなくてはならない。地震によって調子を崩す患者さんもいる。PTSDの予防のためにもいつも以上に心のケアが必要な場面も多い。
 そして入院。薬の処方、安全の確保は前提としてもう一つ絶やしてはならないものがある。それは食事だ。四つの病棟に入院されている二百人以上の人たちに、例え停電でエレベーターや厨房がフル稼働できずとも、ちゃんと適切なごはんを提供せねばならないのだ。
 食材だけではない。発電のための燃料、水、ガソリン、医薬品に医療資材といった全てのライフラインを確保する必要があった。

 具体的に各部署がどのような動きをしたのかその詳細はここでは割愛するが、一つ言えるのはあの時はみんな一丸となって事に当たったということ。本院そしてサテライトクリニック、それぞれの持ち場でそれぞれの条件下でそれぞれの課題と闘った。そして患者さんたちのご協力もあって、大きな事故なく当法人は局面を乗り切ったのだ。
 もちろんまだ地震の余韻は残っている。また災害に見舞われるリスクもある。今回学んだこと、習得したノウハウ、そして一丸となれた心意気を大切にしたい。食材が届かず職員は白米と味噌汁だけの昼食となった数週間。あの時に共有したふりかけの味、医局で理事長先生と食べたカップラーメンの味を忘れずにいよう。

 毎年優秀な功績を残した部署に贈られる『理事長賞』というものがある。平成30年度はライフライン確保に奔走してくれた事務部総務課、そして患者さんへの食事提供を絶やさないでくれた栄養課へと贈られた。普段は経営だ収益だと口うるさい上層部なのに、もっと大切で当たり前なことをさらりとやるのだ。そう、この船は白衣を着た船員だけで動かしているわけではない。診療を可能にしてくれるたくさんの仲間が一緒に海を渡っているのだ。
 風のすずらん会、憎いことをしてくれるぜ。また好きになっちまうじゃねえか。

 そんなわけで飴降って地固まる。少し強くなれた船は8年目の海へと進路を執る。次なる挑戦はグループホームだ。新たに始まるこの支援が患者さんたちの役に立てたら嬉しい。

(文:クルー)

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