コラム

コラム2018年07月「幸福な食事」

 七夕には織姫と彦星が年に一度の逢瀬を遂げる。この職場にも同様の頻度で開催される一つの集いがある。それは医局の食事会、風のすずらん会に所属するドクターのみで行なう宴である。
 どうしてそんな席が必要なのか?確かに日常の中でもカンファレンスや委員会などドクターが集う機会がないわけではない。しかし当然ながらその時はみんな白衣姿であり、他の職種のスタッフも一緒にいる。しかも当法人は江別の本院だけではなく北広島と美唄のクリニックも医局メンバーで回している。つまり僕が江別に出勤する時は必ず星野院長が美唄におられるように、交代勤務が基本。そして出勤シフトの曜日もそれぞれ異なる。つまり純粋にドクターだけのメンツでなおかつ全員集合するのは一年を通して実はこの時しかないのである。
 しかも当然ながらここではみんな私服。院内でまとっている色々な物を脱いでいるのだ。

 少し当法人の医局の特徴を挙げておくと、それは何と言っても特定の大学の系列ではないということだろう。ホームページの医師紹介を見て頂いてもわかるように、必ずしも全員が北海道出身というわけではない。ドクターはそれぞれ理事長先生の謎のリクルートによって日本各地からここに至っているのだ。だから良い意味で十人十色であり、医療的にも人間的にも特定の色に染まっていない。まるで様々な国籍の乗客が同じ車両に集ったオリエント急行殺人事件のようだ。となるとやはり理事長先生役はショーン・コネリーだろうか。

 そんなわけで医局の食事会は毎回とても優雅なリラックスが味わえる。白衣の時とは違う、自然で素直な言葉が通う。ここでしか明かせない苦悩も迷いも弱点も持ち寄られる。そう、この場はドクターという生き難さを抱えた当事者たちの自助グループでもあるのだ。

 そしてもちろん、医師としての経験年数の浅い自分にとっては先輩方のお話を聞ける貴重な学びの場でもある。白衣の時に指導して頂くのも有難いが、食事会だからこその仕事補整なしの経験談や診療論はどんな医学書より価値がある。そしてスタンダードな正解がない仕事だからこそ、自分を省みさせてくれる存在というのが絶対に必要なのだ。自分一人では見失っていただろう。過ちを犯していただろう。こんなにカラフルでハートフルな大ベテランの先輩たちと働けることを幸福に思う。

 そんな宴が先月人知れず行なわれた。今回は残念ながら完全な全員集合とはいかなかったが、それでももはや複数のテーブルを並べなければ席が足りない人数が参加した。
 会話と料理を楽しみながら穏やかな時間が過ぎる中でふと一人感慨にふける。まだ病院が美唄の山奥にあった頃、ハード面でもソフト面でも満足な医療とは呼べなかった。医師不足も深刻な問題であり一時期は存続が危ぶまれたこともある。しかしはるばる九州から来てくださった理事長先生のもと不屈の闘志で大改革は行なわれ、一人また一人とドクターが仲間に加わり、今こうやってたくさんのみんながいる。あの頃の辛酸など、今の幸福な食事を楽しむための前菜だったと思えばなんてことはない。もちろん法人としても個人としてもまだまだ課題は山積みだが、それでもあの時逃げ出さなくて良かったと、席を立たなくて良かったと心から思う。

 誰かが外来にいる時は誰かが病棟にいる。誰かが往診に出ている時は誰かが勉強会をやっている。誰かがクリニックから患者さんを紹介すれば本院で入院対応してくれる誰かがいる。美唄の片隅に灯った小さな火は、江別や北広島までキャンドルサービスされ、みんなで役割分担して今日もこの法人を回している。各地で優しいスタッフたちに支えられながら。

 もちろん忘れてはいない。福岡の地に灯った新たな火…第3のクリニックも。いつかそちらの先輩方とも幸福な食事を囲みたいものだ。

(文:医局員)

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