コラム

コラム2012年11月『秋の夜長に心の名作(5) 死神くん』

いよいよ雪が降ってきました。季節は冬、というわけで秋の夜長に名作を楽しもうというこのシリーズも今回で終わりです。これは外来で診療に当たっている時にも患者さんと度々話題になることですが、「空いた時間をどう埋めるか」「寂しさをどう紛らすか」・・・その1つの方法が好きな作品を味わう、ということかもしれません。少なくとも私にとってこれまで紹介してきた愛しい作品たちは、人格を育ててくれた栄養であり、弱った心を元気付けてくれる常備薬です。もしあなたの心にもそんな作品があるのなら・・・ぜひそれをずっと大切にしてほしいと思います。
では、最後に自信を持って紹介するのは漫画「死神くん」です。

■ストーリー
死神は死んだ人間の魂を霊界に運ぶのが仕事、しかもそこには「死亡予定の人間の魂を死亡予定時刻に抜き取る」というルールがある。そのため死神は死期が迫った人間の前に現れ余命を宣告したり、逆に予定外の人間が死ぬのを防いだりする。主人公の死神413号(死神くん)は人間への思い入れが強く、死を宣告した人間が悔いのない時間を過ごせるように協力し、時には死神のルールを逸脱してしまう。そんな死神くんに関わった人間の姿を毎回1話完結で描いていく。

■福場的解説
命をめぐる人間ドラマの金字塔は「ブラック・ジャック」ですが、本作もそれに並ぶ名作だと思っております。シリーズとしての主人公は死神くんですが、1話ずつの主役は毎回死神くんと関わることになる人間です。その幅はとても広く、幼い子供からおじいちゃんおばあちゃんまで多種多様な人間が主役になります。時には犬やライオンなど動物が主役になることも。死神という超常的な設定上物語の舞台もかなり自由で、何気ない日常の学校から砂漠・戦場・宇宙空間までかなり多様です。そのため毎回異なるドラマの中で、「残された時間をどう生きるか」「死にゆく人間に何をしてあげられるか」などの普遍的なテーマに対しても様々な答えが示されていきます。 この作品の特徴として、生き死にをめぐる人間の行動には様々な命題や答えを提示しながらも、生き死にそのものについては「運命」という言葉だけで説明しているところだと思います。どうしてあんなに生きたがってるあの人が死んで、死にたがってるあの人が助かるのか。どうしてこんなに幼くして命を落とさなくてはいけないのか。そんな理不尽に思える生き死にの摂理に対して、死神くんは「運命だよ。運命に理由なんかない」の一言で片付けてしまいます。それは残酷にも思えるのですが、死神くんの信念は「運命に理由を求めるより与えられた時間をしっかり全うする」というところにあるのだと思います。死神くんが死期の迫った人間にかける言葉はとても優しく、死のうとしている人間を生かすために勇気付ける言葉はとても心強いです。
本作は生き死にをテーマにしながらもそのかわいい絵柄もあってけして暗い気持ちになることはありません。読後感は少しせつなくてもとてもあったかいものです。毎回1話完結ですのでどの話しからでも作品に入れます。どんな人にもお勧めしたい、とても優しい作品です。

■好きなエピソード
夢中になって読んでいたのは10年以上前ですが、今でもよく憶えている話をご紹介します。

『心美人』
同級生の福子と真実(マミ)は幼馴染の親友。背が低く太っている福子に対して真実は美人でクラスの男子からもモテモテであった。そんなある日真実は顔に大やけどを負ってしまい男子たちも離れていった。お見舞いに行った福子にも真実は「もう死んでやる!」と当たり散らす。悩む福子の前に現れた死神くん、死を宣告されたのは福子だった。自分の人生が残り1週間だと知らされた福子は、心の中で今までを振り返る・・・チヤホヤされる親友の影でバカにされいじめられてきた自分、いつもみじめな思いをしてきた自分・・・。死亡予定日、福子がとった行動とは?

→多くのファンが愛する名作。美人と不美人・・・そんな価値観に振り回されがちな私たちの日常、でも本当に一番大切なことは何なのかを感じさせてくれます。ラストの福子のセリフ、大好きです。1人でも多くの人に読んでほしいです。

『神の選択』
1台の車にたまたま乗り合わせたのは医学生とその彼女、高熱の赤ん坊とその母親、そして人を刺して逃走中の犯人。しかし車はガードレールを突き破り崖に墜落・・・そこに時間を止めて現れたのは死神くんだった。彼は言う、「定員オーバーだ。この中で死ぬのは1人だけだ。もし希望があれば聞く」と。誰が死ぬべきかを話し合う乗員たち・・・当然言い争いになる。死にそうな赤ん坊が死ぬべきだという話になれば母親が代わりに死ぬと訴え、犯罪者が死ぬべきだという話になれば自分にだって家族がいると主張、医者になって実家の病院を継ぐ予定の医学生は当然死ぬわけにはいかないと主張、医学生の彼女は死にたいと言うが医学生も赤ん坊の母親もそれを止める。結局結論の出ないうちに死神くんは言う・・・「時間切れだ。誰が死ぬかは神が選んだ」と。そして時間は動き出し車は崖下に叩きつけられた。はたして死んだのは・・・?

→哲学の授業のようなお話。生きるべき人間、死ぬべき人間、そして神の選択・・・異色作だとは思いますが強く心に残っています。

『老兵は去らず』
終戦を知らず南の島に残っていた日本兵。そこに死神くんが現れ死が迫っていることを伝える。老兵の最後の願いは故郷である日本に戻りたいというものだった。老兵は死神くんと日本に戻る。「日本はもう戦争はしないと誓ったんだ」と死神くんから聞いて嬉し涙を浮かべる老兵。そんな彼が現代日本で目にしたものは・・・?

→平和とは何なのか、こういうことを自然に考えさせてくれ教えてくれるのがこの作品の魅力だと思います。戦争を知らない私たちだからこそ、知っている人たちの言葉に耳を傾けなくてはいけないと思います。

■好きなセリフ & 私への影響
「運命は変えられなくても、人生は変えることができる」死神くん 何気ないこの一言、今でも私の座右の銘です。進路や仕事で迷った時、この言葉に何度も勇気をもらいました。

(文:福場将太)

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