旧美唄病院コラム

2008年9月(事務)『事務職員の無駄知識』

 私は約10年前に、英国で駐在員生活をしておりました。英国の制度が決して日本が将来めざす制度とは言えませんが、医療制度改革の真っ只中、何かしら参考になるのではないかと考えますので、英国の医療制度を紹介します。ただし制度を利用する立場でしたので、概略や体験談しかできませんが、軽く読んでいただければと思います。

 まず英国の医療は、NHS(国営保健サービス)とプライベート制度(民間医療制度)の2本立てです。NHSは、16歳以上の居住者がその所得に応じて保険料を負担し、受診時は原則無料の制度です。この保険料をNI(ナショナル・インシュアランス)と言います。
 一方プライベート制度とは、民間医療保険や全額自費による自由診療制度のことを言い、その民間医療保険の保険料がプライベート・インシュアランスです。この保険料は雇用者が負担しているところが多いようです。企業はいい人材を獲得するため、特に管理職の社員に対して、給料以外に福利厚生として住宅関連費補助と同じレベルで民間医療保険をつけています。

 制度が2本立てになった経緯は、経済力の低下や高齢者、移民の増加によって、医療や福祉の予算が逼迫するようになったことに起因します。そこに登場したのがサッチャー首相の医療制度改革です。政府は予算に上限を設け、医療費の抑制に踏み切ったわけです。
 医療経済を建て直すために、まず病院を閉鎖していきました。25万床から13万床台に約半減したそうです。入院できる病院が減れば必然的に医療費も減るという、どこかの国でも進めている政策ですね。そして市場原理を導入し、NHS以外にプライベート制度を認めました。

 NHSにおいて、患者は救急医療を除いて予め登録した一般家庭医、これをGPといい(GP:General Practitioner)、GPの診療を受けねばならず、GPの紹介を得て初めて病院や専門医の治療を受けることができる仕組みになっています。 国民は、自分のかかりつけ医であるGPを選択する権利と義務があり、GPの紹介なしには、二次医療を受けることができません。
 そしてGPは、年間で登録患者数に応じて算出された予算金を受け取り、地域の特性に応じて、受け持ち患者の医療サービスを決定します。しかし人手不足・モチベーションがあがらない現場意識などからの膨大な待ち時間、いや現実的には待ち日数、待ち月数と言った方がいい現状でした。そして医療従事者の海外流出など医療の質の低下問題が顕著になり、最近は毎年増額予算に方向転換し、無料電話相談をはじめたり、質の向上にも努めているようです。

 一方プライベート制度は、良い設備で待たなくて良い利点がありますが、当然のこと日本に比べて非常に高額になります。高額の民間保険に加入できる、または全額自己負担で支払える高額所得者や、福利厚生のひとつとして民間医療保険費用を負担する企業の従業員や富裕層に対してのみ、充実した医療機会が保障された制度とも言えると思います。

<制度紹介後の展開・体験例>
GP:

住所が決まり、GPリスト(地域事務所、図書館等公共施設に置いてある)を入手し、評判などで選び、家族全員で面談し登録する。学校の保健室とも連携するため、学校の転入書類などにGPは原則として必須項目。
なかなか予約が取れない(大げさに症状を訴える)。安い薬しかくれない(抗生剤を処方されたら重病の証拠?)。やっととれた6ヶ月後の予約(手遅れ・死亡)。

病院:

医師のオフィスは診察する最低限の器具しかない。検査・手術になると医師が病院に予約を入れる。
医師は病院付きではなく、必要なときに病院のスタッフ・設備を使っている印象。さらには病院は、スタッフ・設備などを使用させて使用料を医師から取って経営しているという印象。

救急病院:

大広間の待合、診療順番は大広間を見渡し受付の医師(後期研修医?)が決める。優先は緊急性と子供?
外科で治療より取調べ的診察を受けた体験(DVを疑われる)。

産科:

野戦病院のようなNHS。NHSでは1泊が標準で、つわものは出産がすんだら運転して帰った。
出産場所(家族も一緒にプール出産)まで選べるプライベート。

プライベート診療の病院:

受付は個室で、第一声「当院はNHSではありません。お支払は、現金・クレジットカード・小切手・それとも保険会社?」。
そして退院は、退院したいとの意思表示から手続きが始まる。

薬局:

患者の受け皿。地域における薬を通した医療相談役。
日本以上に充実したOTC薬(日本では処方箋薬でも英国では薬屋で買えた)。

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