コラム

コラム2025年3月「当たり前の願い」

 今月中旬、二度目の新型コロナウイルス感染で少しお休みをいただいた。普段はストレスに思うこともある仕事だが、できないとなると途端に愛しくなるもので、復帰した日はこれまでどおりのことをしているだけなのに、この上ない充足感を覚えた。やはり、働けるというのは幸せなことなのだ。
 自分の場合はわずか五日間ほどベッドの上にいただけだったが、それでもこれだけ働くことに思い焦がれた。もしこれが年単位でベッドの上にいなくてはならないような病気の人だったら、その思いはもっともっと切実だろう。そして、そんな人の思いを叶える手段が今の時代にはあることをみなさんはご存じだろうか。病院のベッドの上にいながらにして、街の喫茶店でウエイトレスとして働いている人たちがいるのだ。

 その不可能を可能にしたのがオリヒメロボット。遠隔操作で動かすことができるロボットで、搭載されたカメラとマイクを通して状況を把握したり会話したりすることも可能。よって喫茶店でお客さんの注文を受け、飲み物をトレイに乗せてテーブルまで運ぶ…という仕事がロボットを操作することで遠く離れた病院のベッドの上からできてしまうのだ。
 本当にすごい時代になったものだ。実は僕がオリヒメロボットの存在を知ったのは、先日とある取材を受けたのがきっかけ。記事を書いてくださったライターさんは北海道から遠く離れた場所におられ、クリニックにやってきたのはミニサイズのオリヒメロボットだけ。ロボットを通して僕はライターさんと言葉を交わし、握手を交わし、心を交わすことができた。
 コロナ禍で在宅ワークというものが広まったが、これは体の病気で移動に困難を伴う人、心の病気で人前や人込みに行くのが困難な人にとっては、新たな就労の可能性を切り拓くことになった。同様にこのオリヒメロボットも、働くことをあきらめていた人たちにとって大きな希望であろう。

 このように障害や難病を持つ者が何とかして働こうとすると、「どうしてそこまでして働きたいんですか」と尋ねてしまう人がいる。しかし、「働きたい」というのは多くの人間にとって当たり前の願いである。障害のある者が働きたいと思うことは健常者と何も変わらない普通の欲求、特別な情熱ではない。当クリニックでも心学塾という就労支援プログラムを長年やっているが、今改めて感じる。これは当たり前の願いを支援するプログラムなのである。

オリヒメロボット取材記事:
https://www.thousands-miles.com/information_from_thousandsmiles/10486/

(文:福場将太)

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