コラム

2013年02月「秘密基地症候群」

 大雪です。雪国の子供たちはかまくらで遊んでいる、というイメージがありましたが実際にはそんな光景を見たことはありません。あれは東北だけで北海道は文化が違うのでしょうか?まあそれはさておきかまくらって素敵ですよね、こういう秘密基地が大好きだったあの頃の気持ちをみなさんは憶えていますか?今回はそんなお話です。

 小学生の頃の秘密基地は公園にありました。少し森みたいになってるところでダンボールで囲いを作りましたね。また大きな木の枝に足をかけて上っていったら、そこは外からは葉っぱで見えない素敵な隠れ家でした。枝の間にお菓子を隠しておいて、それをこっそり食べたものです。他にも小学校の校庭の隅にあった倉庫の裏、勝手に上ったビルの屋上などなど子供はどうしてそういうところにこもりたがるんでしょうかね。自分の家でも押入れの中に布団や電気スタンドを持ち込んで、勝手なマイルームを作ったりしましたよね。家族旅行や修学旅行でもホテルのベッドで寝るのがどうも落ち着かなくて、部屋に入ってすぐの細い床の部分に布団を敷いてそこで寝たら満足でした。あと秘密基地ではないですが、通学路の途中で勝手にどこかの敷地を通ったりして「すごい秘密の近道を見つけたぞ!」なんて友達に自慢したりしていました。まるで自分がその道を建造したかのように得意気で…まあ実際には激しく遠回りだったり通れないくらい細かったりしたわけですが、そこを通るだけでドキドキワクワクしていましたよね。

 中学時代はといえば、音楽に興味を持ち始めた頃で友人と廊下の端っこに勝手にキーボードやギターを運んで休み時間はいつもそこにいました。「家庭科室前スタジオ」なんて呼んでいましたがまあただの廊下です。そこで聴くに耐えないレベルの演奏を勝手にしていたのだから今から考えれば迷惑な話。他にも所属していたパソコン部の部室、普段使われていない教室などにこもるのが何故か大好きでした。

 高校時代になるとさらにエスカレート、休み時間は階段を上りきって屋上前まで行き、誰もいない階段に腰掛け1人ギターを弾いていました。…ただの淋しいヤツじゃないかって感じですが何故かそこに行くと心が安らいだものです。他にもたまたま入った図書委員会が妙に盛り上がって、放課後は委員の仲間と図書室で駄弁るのも青春でした。今まで何とも思っていなかった図書室が秘密基地に生まれ変わったような気がしたものです。

 大学時代の秘密基地はやっぱり音楽部の部室。休みの日に1人そこでギターを弾いていると他の部員もたまたまやって来たりして、そいつはそいつでドラムを叩き始めて無言のセッション開始…そしてまた各自無言で演奏をやめ結局会話もなく帰っていくなんてことがよくありました。

 就職してからはなかなか職場に秘密基地を作るというのは難しかったですが、美唄病院においては仕事上がりの体育館が憩いの場でした。誰もいない体育館でギターを弾いていると気づけばもう消灯時間だったりしたものです。

 …とまあとりとめもなく書いてきましたがこうして考えると人間ってのはやっぱり秘密基地が好きなんだろうと思います。1人で、あるいは気の置けない仲間数人とそこにこもるのはこの上ない幸福なのです。…何でしょうね、あの魅力は。ただの階段の踊り場がまるで普段の現実とは違う別世界、時代の流れに乗らない異次元空間のように感じてしまうのは。暗くて狭くて暑苦しい押入れの中が、あんなに心地よいスイートルームになってしまうのは。ボロボロのダンボールで作った隠れ家にこのまま一生住みたいなんて思ってしまうのは。 「男には1人になりたい時間がある」なんて言いますが、今から思えばうちの親父も仕事の後でまた仕事部屋に戻って好きな本を誰にも邪魔されず読んだりしてました。うちの職場にも仕事の後ですぐ帰宅せずのんびり残っている職員がいたりします。まあ奥さんからすれば早く帰って来いって話でしょうが、たまにはね、あたたかい家庭から抜け出して秘密基地にこもりたくなる時があるんですよ…きっと。

 またそんな秘密基地を作りたいな。お菓子や漫画を持ち込んで、好きな曲を歌って…。ねえ、みなさんだってそうでしょう?

 …俺だけか?

秘密基地症候群

(文:福場将太 写真:瀬山夏彦)

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