コラム

2011年10月『食欲の秋~思い出の味~』

 秋はごはんがおいしい季節だ。おいしいごはんをモリモリ食べたいものである。しかし、おいしいご飯というものは必ずしも一流レストランの高級料理とは限らない。実家に戻ったときに食べるおふくろの味、一生懸命働いた後の缶ビール、キャンプで食べるレトルトカレー、デートしながらかじるハンバーガー、娘が初めて作ってくれた手料理・・・そんな幸福と一緒に味わうごはんは何よりもおいしい。そして、思い出と共に記憶される味もある。楽しかったとき、辛かったとき、よく食べていたあの店のあの料理・・・そんな懐かしい思い出の味、皆さんにはありますか?今回はそんな話をしてみよう。

イメージ 私はカレーファンである。いつしかカレーを食べ歩くのがライフワークのようになり、専門店でもそうじゃない店でもたいてカレーを注文する。自宅でも週に何回かはレトルトカレー・・・こんなにもカレーにはまってしまったのは、何故だろう。
 最初に目覚めたきっかけは幼少時に連れて行ってもらったあの店だ。広島市内にあったインドカレー専門店「タンドール」、家から遠かったこともあり年に1、2回家族で外食する程度であったが、私はその機会をとても楽しみにしていた。小学生が初めて食べる日本とは違うカレーの味、ナンにタンドリーチキンにシシカバブーといった今まで見たこともない料理、ラッシーなんて飲み物まである。店内には口ひげをたくわえたダンディなインド人ウエイターがいて、厨房ではターバンを巻いたインド人シェフがナンをこねている、店内はインドの工芸品でインテリアされ、今まで聴いたこともない音楽がかかっている・・・。私にとっては映画の世界に迷い込んだような夢の時間であった。そのため私が広島を去った後も、家族で集まるときにはこの店を選ぶことが多かった。店舗移動しても追いかけていたのであるが、数年前に閉店したことを知りとても大きなショックを受けた。

 次の記憶は中学。高校時代のあの店だ。私たちの時代は土曜日でも半日授業があったため、土曜日には友達とどこかでごはんを食べて帰るのが高齢となり、色々な店を回った。色々な店を探索している時に広島駅ビルで見つけたカレーや「キートン」。つぼやきカレーなるドロドロしたカレーとサフランライスが特徴で、何より驚いたのがその辛さがABCの三段階になっていたことだ。私たちがノリで一番からいCカレーを注文しようとすると店のおばさんは「やめといたほうがいよ、本当にいいの?」と説得してきた。それで結局注文せずにしばらくすぎてしまったのだが、ある日友人がおばさんの忠告を振り切って注文したところ、その辛さに耐え抜きながら何とかたいらげ、その帰り道駅のホームのベンチで寝こんでしまった。ついに私も挑戦したのだが、最初はあまりの衝撃にやはり驚いた。全身から噴出す汗、福神漬けやらっきょうが甘く感じるのである。そして特筆すべきはそんなに辛いのにおいしいということだ。だからついつい残さず食べてフラフラになってしまう。おばさんはそんな苦しみながら食べる僕たちの姿をおもしろそうに見ていたが、時には店の外でバッタリあったときにも声をかけてくれたりと私たちはすっかり常連になっていたのだと思う。そのカレーがクラスでも話題となり、ある日「キートンCカレー大会」が開催された。土曜日の午後に中学生の団体が店を訪れ、「水なしで食べきったらタダ」というわけのわからんルールを勝手に決めて、他のお客さんもいるというのに悲鳴を上げたり写真とったりと大騒ぎであった。おばさん、ご迷惑をおかけしました。しかし人の体はやはり順応していくもので、鍛えられたのか麻痺したのかわからないが高校生になる頃には私も友人もCかれーを特に苦痛なく食べられるようになり、おばさんも忠告することはなくなった。中高6年間通い続けたこの店は、私たちが卒業する年に駅ビルの改装にともない姿を消してしまった。最期に食べに行ったあの日のせつなさは今も覚えている。
 ちなみにこの店には後日談があり、数年前とある友人から写真つきメールが届いた。なんとキ?トンを発見したとのことで、広島市内に別店舗があったというのだ!やったぜ!今年の1月にまた別の友人と広島であったときにも、なんと彼もまたその別店舗のキートンに今だ通っていたというのだ。彼はあのドロドロカレーのおいしさを力説していた。もう20年近く経過しても未だに私たちをとりこにしているキートン、これはある種の依存症なのかもしれない。

 3番目の記憶は大学時代。これはもう知っている人も多いが新宿の「もうやんカレー」。肉の塊がゴロゴロ入った至極のカレー、正直このおいしさは日本一ではないかと思う。もうやんカレーは辛さも追及できるがもうそのままでも信じられないおいしさ、お昼時間はバイキングであったため私はよく大学を抜け出して通ったものだ。カレーを盛る皿もピザの皿のように大きく、素人はもりすぎて失敗してしまう。普通によそったつもりでもかなりのボリューム、しかもサブメニューの野菜やうどんもめちゃくちゃうまい。そしてまず間違いなくもうやんカレーを食べた午後は激しい睡魔に襲われる。満腹になると眠くなる、まさに至福の時間であった。ちなみに大学病院の医局の前にもよく、もうやんカレーの出前が着ていたから、卒業してドクターになった後でもやはりその魅力からは逃れられないようだ。いまや色々なテレビでも取り上げられいつも大人気の超満員、店舗も新宿以外にもできたようであり、これはラーメン業界における「天下一品」のように、いずれ日本を制覇するかもしれない。当然ながら東京に行った際には必ず今でも食べに行く。まるでそれは聖地の巡礼。ところで、「もうやん」とはどういう意味なのだろう。食べ過ぎて、でもやめられなくて、ついつい「もういやん」と言ってしまうからではないかとの都市伝説を聞いたが・・・・おそらく違うだろう。

イメージ 最近の記憶は北海道のスープカレーである。キートン、もうやんとドロドロしたカレーが好きな私としてはスープカレーに当初抵抗があったが、何年か前に高校時代の友人と「修学旅行パート2」と題して集まったとき、それは思い出の味に変わった。高校時代のときと同じコースをまわるというその企画の最後に、せっかく北海道だからと入ったスープカレー、懐かしい仲間と新しい味をとても楽しんだ。それをきっかけに今でも機会があれば色々な店のスープカレーを味わいたいと思っている。

 そんなこんなで私の思い出はやたらにカレーと共にある。実はまだまだお気に入りの店はたくさんあるのだけれど、すでにかなりの文量になってしまっているので今回はこんなところにしよう。とにもかくにも私にとってカレーは元気をくれる料理だ。今でも美唄市内のお店のカレーを頻繁に食べに行ったり出前したりしているので、もしかしたらいくつかのお店から「またかよ」と思われてるかもしれないが、いいじゃないですか、おいしいんだから。
 皆さんも時々は思い出の味を旅してみるのもいいんじゃないでしょうか。ちなみに美唄メンタルクリニック、美唄病院も食堂のカレーはとてもおいしいです。
 いやあ、気楽に書き始めたのに随分長くなってしまった。誤字チェックのおねーさん、申し訳ない。、今度カレーでもおごります。

(文:福場将太 写真:瀬山夏彦)

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