コラム

2008年11月『冷たい雨』

 また裏切られた……そんなふうに思うのは僕の身勝手かなぁ。人それぞれ価値観が違って、感性も違うから、相手に自分の理想や期待を押し付けちゃいけないってのはわかってはいるんだけど、でもこんな想いをするくらいならもう誰とも関わりたくはない。
 人の醜さを垣間見るたびにもう全てがどうでもよくなって、きっとその醜さを自分も誰かに見せているんだろなと思うとなお苦しい。

 想像力、これはきっと人間だけが持っている技能。それがもととなって楽しい空想や幸せの予感、前向きな発想や数々の名作、発明品を生み出すわけだが、厄介なことにこの想像力ってやつはマイナス方向にも発揮される。疑惑、邪推、悪い噂……人の言葉の裏や仮面の下、そんなものを考えてしまう。考えれば考えるほど嫌な気持ちになるってわかってても、誰かの小さな矛盾や小さな嘘、悪意に気がつくと想像はどんどん闇へと向かって広がっていく。孤独、不安、憎悪、嫉妬といった感情たちにどんどん餌を与えてしまう。だからといって根拠もなしに「とにかく信じる!」なんてのもどこか無責任で逃避な気がする。いっそそうなれれば楽なのかもしれないが、すべて信じることは疑うよりもはるかに難しい。考えなければいい、と心に言い聞かせても思考は巡る。そしてもはや何が本当で何が嘘かもわけがわからなくなる。そんなドロドロの自分が大嫌い。

 そんな時、感情や想像力なんていう面倒くさい技能は捨てて、心のない生き物になれたらなんて思ったりする。野に咲く花のようにただその日の風に揺られながら、死への恐怖に怯えることもなく与えられた時間を生きる。そんなふうであれたなら……。

イメージ 今年も9月から10月にかけて空知地方は不安定な天気に見舞われた。1日の中で突然の豪雨が降ったりすぐまた晴れたり……。そしてもう11月、やがて雪がちらつき始め辺りを白銀に染めるだろう。
 ああ、ひと雨ごとに寒くなるこの大地みたいに、涙流したその分だけこの心も冷えきったらいいのに。
 ああ、ひと雪ごとに冬に染まるこの季節みたいに、誰も疑わない、誰も恨まない、そんな真っ白でこの心も閉ざされたらいいのに。

 しかし心にも四季がある。そして季節は巡る、どんな時も。
 今はどんなに冷たい雨が降っていても、過酷な雪に覆われていても、必ずまた暖かい春が訪れそこに喜びを感じることを、心自身が知っているのだ。

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