依存症専門リハビリテーション(アディクションカレッジ)

 依存症について共に学び、考え、理解を深め、克服のための知恵や工夫を増やしていく。アディクションカレッジはそのためのミーティングプログラムです。
 内容はアルコール依存症に主眼を置いたものになっていますが、それ以外の依存症の患者さんが参加されても学習できるように対応しております。

基本開催 第1・第3月曜日の午後1時30分~
美唄すずらんクリニック ミーティングルームにて
参加スタッフ 精神科医、看護師、精神保健福祉士、作業療法士
学習テーマの例 「お酒の良い所と悪い所」
「お酒が体にもたらす病気、心にもたらす病気」
「依存症発見の歴史と治療法発展の歴史」
「依存症を認める」
「家族の気持ちを考える」
「冠婚葬祭に忘年会、こんな時どうする?」
「お酒がなくても幸福になれるか?」など
■CONTENTS■
  1. はじめに
  2. 依存症とはどんな病気か
  3. 依存症の治療とは
  4. 治療したくないという方へ
  5. ご家族の方へ
  6. 出張講座
  7. 活動日誌

1.はじめに

 近年、テレビの健康番組や報道番組でも『依存症』という病名を多く耳にするようになりました。アルコール、薬物、ギャンブル、買い物、ゲーム、SNS、リストカット…人間が依存する対象は色々あります。しかし、そもそも依存することはそんなにいけないことでしょうか?
 依存とはすなわち頼ること。人間は何かや誰かに頼らなければ生きていけない弱い生き物。依存することは人間にとって至極自然なことであり、必要なことでさえあるのです。確かに依存症は病気ですが、依存症を患ってしまった人たちがけして特殊だったというわけではありません。依存症は人間なら誰が患ってもおかしくない、とても人間らしい病気だと僕は思います。

 この病気を克服するために必要なことは、患者さん自身が依存症について学び理解すること。理解が深まるほど、克服するための知恵や工夫が身についてきます。そしてその学習は一人で机に向かってやってもあまり効果がありません。同じ弱さを抱える仲間が集うミーティングの中で学ぶのが一番効果的で一番成功率が高いのです。アディクションカレッジはそのためのプログラムです。

 当クリニックでの依存症プログラムは平成19年10月より開催してきましたが近年は一度休止しておりました。その間も当法人の母体である江別すずらん病院においてはプログラムを継続し、そこに参加しながら僕なりに依存症について考えてきました。ミーティングをくり返し、自分の無知と思い上がりを痛感しました。学べば学ぶほど、依存症の克服を目指すことは人間としての生き方を探求することなのだと感じました。そして学んだことは全て、患者さんやご家族から教わったことでした。

 現在充電期間を終え、再び美唄すずらんクリニックでもプログラムを開催しております。依存症は時代の中で息づく病気でもあります。今この時代にはこの時代の依存症医療があります。もし今あなたが依存の問題で苦しんでおられるなら、ご本人でもご家族でもまずはぜひ相談にいらっしゃってください。その小さな勇気が解決への大きな第一歩です。僕の学んできたことは全部お伝えしますし、一緒に新しい知識を深めていきましょう。

 依存症をあきらめないで、恨まないで。強くなる必要はありません。一緒に考えて克服のための知恵を増やしていきましょう。この人間らしい病気を一緒に学んでいきましょう。

平成30年4月
精神科医 福場将太

2.依存症とはどんな病気か

 依存症という病気の存在が広く知られてきている昨今。しかし具体的に説明してと言われたらわかっているようでなかなかわかっていないのがこの病気です。この項では依存症とはどんな病気なのか、基本事項をご説明します。

●物質への依存

 中毒という言葉があります。かつては「アル中」「ヤク中」のように使われてきましたが、現在では中毒と依存症はしっかり区別された別の病態として扱われます。
 簡単に言えば中毒とはまさに字のごとく、「体の中に毒が入って具合が悪くなった」です。例えば腐った物を食べた食中毒、水俣湾で起こった水俣病は工場排水に含まれる有機水銀中毒、不完全燃焼で発生したガスを吸って起こる一酸化炭素中毒など。ポイントは、けして本人が自ら毒を摂取したわけではないということ。
 しかし依存症はどうでしょう。依存症とは「本人が自ら毒を摂取し具合が悪くなった」です。アルコール依存症、シンナー依存症、覚醒剤依存症など。ポイントは、いずれも毒を体内に入れているのは本人だということ。
 このように両者は別の病態、よって治療も異なります。中毒になった人は自ら好んで毒を摂取したわけではないので、内科病院で毒を体から抜いてもらい、体調が良くなれば治療は終了です。しかし依存症では、たとえ毒を抜いて体調が戻っても、退院後また自ら毒を摂取してしまえば同じことがくり返されます。これでは治ったとは言えません。そう、「毒を求めてしまう心」を治さなければいけない。だからこそ依存症は内科ではなく精神科医療の専門なのです。

●行為への依存

 アルコールや薬物といった化学物質を体内に入れるわけではない依存症もあります。例えばギャンブル依存症、買い物依存症、ゲーム依存症など。またリストカットや根性焼きといった自傷行為、万引きや盗撮といった犯罪行為も依存症の要素が強いと言われています。これら行為への依存はそれを行なう過程(プロセス)への依存と言われています。
 あるいは行為の中でも恋愛やSNSなどへの依存もあります。これは特定の人間関係への依存、所属することで得られる安心感への依存と言われています。

●つまり依存症とは

 物質への依存、行為への依存を含めて考えるなら、依存症とは「ちょうどよく頼ることができなくなった病気」「自分をコントロールするブレーキが壊れた病気」と説明することができます。
 アルコール依存症において、患者さんは飲酒の有害性を知らないわけではありません。飲んではダメだと頭ではわかっていても止められないのです。いくら根性があっても自分の力ではもうブレーキがかけられない、依存症とは脳の中にあるコントロール機能が壊れてしまった病気なのです。

例題) 次のうち依存症が疑われるのは?

  • ア.明日は早朝勤務なので今夜は飲酒してはいけないとわかっていても飲んでしまう人
  • イ.お酒が大好きなので忘年会の時はいつもよりたくさん飲む人
  • ウ.勤務中にこっそりウイスキーを少量飲む運転手
  • エ.一度宴会で酔って人を殴ったためそれ以来飲酒をやめている人
  • オ.覚醒剤は違法な薬物だとわかっているけどどうしても使用してしまう人
  • カ.毎月お小遣いの3分の1はパチンコに使うと決めている人
  • キ.生活費だから手をつけてはいけないとわかっているお金を持ち出して競馬へ行く人

 おわかりですか?
 お酒が好きだから、酒癖が悪いから、大量に飲むからという理由でアルコール依存症が診断されるわけではありません。自分で自分にブレーキをかけられなくなっている状態が依存症です。ちなみに正解はア・ウ・オ・キです。

●依存症の症状

 依存症はちょうどよく頼ることができなくなった病気。それによりどんなことが起こってくるのか、アルコール依存症の場合を考えてみましょう。
 まずはどんどん飲酒量・飲酒時間が増えていきます。これは耐性と呼ばれる現象です。その結果起こるのが健康の問題。不適切な飲酒は肝機能障害・糖尿病など様々な体の病気を引き起こします。それでもお酒が手放せないのは、飲酒を止めると手が震える・動悸や汗が出る・イライラする・眠れないといった離脱症状(禁断症状)が出るからです。
 そして飲み続けているうちに、だんだん頭が回らなくなり飲むことしか考えられなくなります。どんな大切なことよりも飲酒を優先して行動してしまいます。それにより起こるのが社会生活上の問題。家庭や職場でトラブルが生じ、やがては泥酔して路上で保護されたり、飲酒運転したり、無銭飲酒したりともはや問題は自分だけのことではなくなってきます。トラブルがくり返されれば周囲の信頼を失い、一人ぼっちになります。それでもどうしてよいかわからず、飲み続けているうちにうつ病や認知症といった重篤な病気も合併してきてしまいます。
 このように依存症は治療せねばどんどんエスカレートしていく恐ろしい病気なのです。イメージできるでしょうか。お酒で失敗することは誰にでもあります。でも失敗したら次から気をつけるのが人間です。それができなくなるのが依存症なのです。生きたいという本能、家族への愛情。依存症はそういったものさえ凌駕してしまうのです。
 薬物依存症やギャンブル依存症も本質は同じですが、薬物依存症では求めるあまり犯罪に手を染めてしまう、ギャンブル依存症では多重債務で莫大な負債を抱えてしまうといった個別の特徴もあります。

●依存症になりやすい人

 そもそもどうして人はアルコールや薬物、ギャンブルを欲するのでしょうか。
 お酒は嫌なことを忘れさせてくれ、ちっぽけな自分を実物より大きく感じさせてくれます。違法薬物は強烈な快感を与えてくれます。ギャンブルで勝った時には高揚感・万能感が味わえます。日常に満たされなさのある人、淋しさのある人、自分にコンプレックスのある人はついそれらを求めてしまうのです。
 でもこの世に悩みのない人間なんていません。虚しさや淋しさのない人生なんてありません。程度の差こそあれ、人間は誰もが足りない部分を抱えています。つまり依存症は誰もがなりうる病気であると言えるでしょう。
 ただその中でも特に依存症になりやすい人に見られる一つの傾向として、「人に悩みを相談できない性格」が挙げられます。弱さを人に見せることができず、飲酒に走ってしまう。この傾向は圧倒的に男性に多いです。ただし体質的には女性の方がアルコール依存症になりやすいことが知られています。

●自分の飲酒はちょうどよいだろうか?

例題) あなたは以下のような経験がありますか?

  • ア.飲酒を減らそうと思ったことがある
  • イ.飲酒について周囲から非難や注意をされたことがある
  • ウ.飲酒することに後ろめたさや罪悪感を感じたことがある
  • エ.朝からの飲酒や迎え酒をしたことがある

 いかがですか?
 これは飲酒のちょうどよさを判定する有名な四項目です。二つ以上該当する場合その飲酒はちょうどよくない、すなわち依存症のリスクがあると判定します。

3.依存症の治療とは

 ここではアルコール依存症の基本的な治療法を説明します。薬物依存症やギャンブル依存症の治療もこれに順ずるものとお考えください。

●治すのではなく克服する

 依存症は脳のコントロール機能が壊れた病気です。残念ながら一度壊れたブレーキはもう元には戻りません。つまり「また昔のようにちょうどよく飲酒できるようになる」ということは現代の医学では不可能なのです。
 では患者さんは一生依存症に苦しまなければならないのかというとそうではありません。飲めば止まらなくなるのが依存症の症状、ということはもう飲まなければ依存症は出てこない。ブレーキの壊れた車ならもう運転しなければ事故を起こすこともないわけです。
 つまり依存症を克服する唯一の方法は『断酒の継続』。それができれば依存症が不治の病だったとしても克服することができるのです。
 とはいえずっと飲酒してきた人、飲酒が人生の大部分を占めていた人がそれをやめ続けるというのは並大抵ではありません。人間はみんな弱いです。特に依存症の患者さんに湧き起こる飲酒への渇望はすさまじく、とても一人で押さえ込めるものではありません。
 そこで、断酒の継続を支える方法が医学によって示されています。

●断酒を支える四本柱

 通院、内服、ミーティングへの参加、そして家族の協力が断酒を支える四つの柱です。
 診察で主治医に自分の素直な気持ちを語ることで心の安定を保てます。離脱症状を抑え、断酒の成功率を上げる様々な薬が開発されています。ミーティングは依存症治療の最も太い柱であり、当院の回復プログラムでもこれが根幹です。そして家族の協力なしに断酒は達成されません。
 すなわち、定期的に通院し、必要な薬を飲み、ミーティングにも顔を出し、家族にも協力してもらう生活を送ること。これが依存症治療の基本になるわけです。

●入院治療

 依存症治療の基本は外来ですが、飲酒が止まらない時には入院治療も検討されます。
 入院することで①お酒のない環境へ避難することができ、②心と体の不調を治すことができ、③睡眠・食事を確保して乱れた生活リズムを立て直すことができます。さらには④勉強会や訓練で断酒の力を高める、⑤本人が入院している間に家族も休養し依存症について学ぶ、⑥退院後の生活環境を整えるなども入院の後半では行なわれます。
 入院治療は長くするほど効果があるというものでもありません。入院中は断酒できていて当然、勝負は退院後です。入院して①から⑥を達成するのにかかる期間はおおよそ2から3か月です。

●最終目標は新しい人生を作ること

 依存症治療はけして我慢と後悔の人生を生きようということではありません。確かに治療を始めてしばらくは飲みたい気持ちとの闘いです。しかしそこを越えると、飲まないのが当たり前の毎日がやってきます。お酒のことを思い出さない生活が定着します。糖分や塩分と異なりアルコールは人間が生きるために必要不可欠な物質ではありません。
 飲酒に代わる楽しみ、飲みながらでは叶えられなかった喜びを手にして、新しい人生でちゃんと幸せになること。それが依存症治療のゴールなのです。
 新しい人生が構築できたら、お酒も薬物もギャンブルももうお呼びではありません。

4.治療したくないという方へ

 僕たち治療者は治療を強く勧めます。なぜなら依存症を治療しなかった場合、もたらされる不幸があまりにも大きいことを知っているからです。失うものは健康だけではありません。財産、家族、友人、仕事、社会での居場所など多くの大切なものが奪われます。命さえ奪われてしまうこともけして珍しくありません。依存症は治療してもしなくてもよい病気ではなく、放置すれば大変なことになる難病なのです。

 もちろん治療を受けるかどうかを最終決定するのは本人です。しかしそもそも選択肢を知らなければ正しい決断はできません。ほとんどの患者さんが最初は治療を拒否されます。それが当たり前です。ですから最初は気まぐれな通院でもよい、まずはご家族だけの相談でもよいと思います。自分だけで結論を出さず、とにかく一度病院にご一報ください。

 近年は、「まだ治療の意志がない患者さんであっても病院が繋がっておくべき」という考えが依存症の治療者に示されています。患者さんからすればお節介ですが、それほど未治療でいた場合の結末が残酷だということです。断酒はできなくても、完全にはやめられなくても、少しでももたらされる不幸を軽減できたらと願ってやみません。

 だってほとんどの患者さんは生きたいと願っていますから。「飲んで死んでもいいから放っておいてくれ」なんて言いながらSOSしてくれていますから。
 依存症を克服した患者さんはよくおっしゃいます。「タイムマシンがあったら、治療を拒んでいた頃の自分に会いに行ってさっさと素直になれと言ってやりたい」と。治療者のエゴかもしれませんが、患者さんの中にある「生きたい」「愛されたい」という本心を僕は信じたいと思っています。

 治療を受けるかどうかはもちろんあなたが決めてください。でも判断するために必要なことを知らずして決めるのは早計です。それにいざ治療しようという気になった時、もう体が限界でついてこないということもあります。これは非常に口惜しいことです。

 治療の強制はしません。よろしければお話だけでも聞きに来てください。

5.ご家族の方へ

 依存症で苦しむのは本人だけではありません。ご家族は病気になる前の本人を知っているからこそ、愛情、憎悪、悲しみ、情けなさなどいくつもの感情にさいなまれます。それでもどうしていいかわからず、気持ちを抑え込んでただ毎日をやり過ごしている方も多いと想像します。

 患者さんの回復にはご家族の協力が不可欠です。ただしその協力とは患者さんに寄り添えばいいとか優しくすればいいとかそんなに単純なものではありません。時には厳しさや突き放すことも必要になってきます。患者さんを支えるご家族にも依存症についての正しい知識が必要になるのです。

 もしこの文章を読んでくれているご家族の方がいたとしたら、一人で抱え込まず相談に来てください。絶対に「自分がなんとかしなきゃ」と責任を背負い込んではいけません。依存症は病気です。他の病気と同じく愛情だけで解決できるものではありません。ちゃんと医療を利用してください。どうしようもない、仕方のないことだなんてあきらめないでほしい。相談して知識を得ることで、絶望しかないように見えていた景色が少し変わってきます。一歩ずつでも解決に向かっていけます。

 依存症は精神科の専門分野です。遠慮なく相談してください。

6.出張講座

 もちろん今依存症に苦しんでいる人の回復を支えるのが僕たちの仕事です。しかし一方で依存症になってしまう人を少しでも減らしたいという願いもあります。不治の病である以上、そもそもなってしまわないように予防することができたらそれが一番の解決策だからです。

 そう考えるようになったきっかけもやっぱり患者さんたちと行なうミーティングでした。患者さんから「先生、お酒を飲む前にこの勉強したかったよ」「ギャンブルを知る前に教えてほしかったなあ」とよく言われるのです。そう、まさにそのとおり。残念ながらタイムマシンがない以上過去は変えられません。でもこれからを生きる子供たちの未来にはまだ間に合う、そう思い至りました。

 不安定な社会情勢の中で、子供たちは未曽有のストレスにさらされています。そしてお酒、薬物、ギャンブル、SNSといった一歩使い方を間違えれば危険なアイテムがすぐ手の届く所にある時代です。正しい知識を得る前にそれらを経験してしまい、診察室にたどり付いた頃にはもう取り返しのつかない傷を負ってしまっている子供たちがいます。その度に、「もっと早く教えてあげられていたら」と忸怩たる思いで胸が痛みます。誰かが悪かったわけではない。ただ学ぶ機会がなかったことだけがいけなかったのです。

 一人の精神科医として、子供たち、あるいはその周囲にいる大人たちに、お酒や依存症についての正しい知識を得てほしいと強く願います。そのための活動なら優先的に行ないたいと思っております。

 当院では出張講座を開催しております。学校でも職場でもサークルでも規模は問いません。みなさんの所へ赴き、お酒の安全な使い方、依存症の予防法、その他なんでもご要望があればお伝えしたいと思っております。お役に立てることがございましたら遠慮なく要請ください。知らなかったせいで起こる悲劇を防ぎましょう。ほんのちょっとの知識があれば、子供たちは依存症になることもなく、大人になった時にお酒やSNSといった人生の楽しみをあきらめずにすむのです。

※出張講座のお問い合わせは、お電話(0126-66-1234)、あるいは当ホームページのお問い合わせメールフォームにてお受けしております。お気軽にご相談ください。

7.活動日誌